生理用品のパッケージが激似。ロリエ「しあわせ素肌」の花王が大王製紙・elis「素肌のきもち」の販売差止めを求める|不正競争防止法と商標法の違い

中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、弁理士の山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

目次

はじめに

花王が大王製紙の生理用品について販売差し止めを求める仮処分を申し立てました。

花王が問題にしているのは生理用品の商品パッケージ。
花王は大王製紙の行為が不正競争であると主張しています。

さて、この不正競争とは一体、どんなものなのでしょうか?
解説してみたいと思います!

生理用品のパッケージが激似。ロリエ「しあわせ素肌」の花王が大王製紙・elis「素肌のきもち」の販売差止めを求める|不正競争防止法と商標法の違い

(1)事件のあらすじ

花王が大王製紙の商品の販売差し止めを求める申し立てをしたことが新聞報道されました(1)。花王のプレスリリース(2)を要約すると、事件のあらすじは以下のとおりです。

2013年
花王: 「ロリエ エフ しあわせ素肌」を発売

2017年3月
大王製紙: 「elis Megami 素肌のきもち」を発売

花王には愛用者から商品パッケージを誤認しやすいという指摘の声が寄せられていた。花王は大王製紙に対し商品の販売見直しを申し入れたが、両者が折り合うことはなかった。

2017年5月1日
花王: 東京地裁に対し「elis Megami 素肌のきもち」の販売差止め等を求める仮処分の申立て

(2)商標権を行使するには商標が似ていることが条件

花王は商品「生理用ナプキン」等について、商標「しあわせ素肌」の商標権を持っています(商標登録第5588035)。

しかし、この商標権は大王製紙を攻撃するための武器にはなり得ません。
大王製紙が使っている商標「素肌のきもち」は花王の登録商標「しあわせ素肌」と似ていないからです。
同じ「素肌」という言葉が入っていても、全体として見れば外観(見た目)も称呼(呼び名)も全く違いますからね。

商標が似ていない以上、大王製紙の行為を商標権侵害として訴えることはできないのです。

(3)商標法と不正競争防止法の違い

そこで、花王が選んだ武器が不正競争防止法です。

商標の場合、商標権を取るために出願の手続きをすることが必要で、審査を通過したら商標権という権利が与えられます(権利創設)。
そして、商標権を侵害した人に対して商品の販売差し止め等を行うことができます。

これに対し、不正競争の場合、権利というものはなく、権利を取るための出願手続きも必要ありません。
そして、不正競争防止法に定められた「不正競争行為」を行った人に対して商品の販売差し止め等を行うことができます(行為規制)。
このため、商標権侵害にはならないけれども、相手の行為に対して何か物申したいという場合には不正競争防止法が役に立つことがあります。

商標法も不正競争防止法も知的財産を保護するための法律ですが、保護の方法が異なるのです(*3)。

(4)不正競争は商標より武器として有効か?

「お金を払って出願する必要がない。審査もない。権利も要らない。だったら、商標より不正競争の方がいいんじゃないの?」

そんなことを考える人も出てきそうです。
でも、事はそれほど単純ではありません。

不正競争防止法では、例えば、

周知表示混同惹起行為(有名な他人の商品表示と似た表示を使って、自分の商品がその他人のものであるかのような誤解を生じさせる行為等<第2条第1項第1号>)
著名表示冒用行為(全国的に有名な他人の商品表示と似た表示を、自分の商品表示として使う行為等<同条同項第2号>)
商品形態模倣行為(他人の商品の形態を真似した商品を譲り渡す行為等<同条同項第3号>)

等、16パターンの不正競争行為が規定されています。

そして、これら各々の行為に該当するとされるためには数々の条件を満たす必要があり、訴える側がそれを立証しなければなりません。

商標に関しては審査を通過し、権利を取っていることで、保護に値するものである、というお墨付きを得ています。
これに対し、不正競争は審査を経ておらず、そのようなお墨付きを得ていません。
このため、裁判を訴える側が裁判の場で立証しなければいけない事項は、商標の場合に比べて格段に多くなります。
不正競争は審査を経ていない分、裁判での立証のハードルが上がるので、決して商標より楽ということではないのです。

即ち、不正競争が商標より武器として有効とは限らない、ということです。

(5)この戦いの行方。花王の立証は容易ではない

現時点では、不正競争防止法を根拠にしているということ以外、花王の具体的な申立て内容は明らかになっていません。
ですので、ここからは予想になってしまうのですが、おそらく大王製紙の行為が「周知表示混同惹起行為」であるとの申し立てではないか、と予想しています。

これが当っているとすると、花王は、

(1)花王の生理用品の商品パッケージが「商品表示」であること<商品表示性>。
(2)花王の生理用品の商品パッケージが商品の購入者や取引者の間で「有名(周知)」であること<周知性>。
(3)花王の生理用品の商品パッケージと大王製紙の生理用品の商品パッケージが「似ている(類似する)」こと<類似性>。
(4)商品の購入者や取引者が、(商品パッケージを見て)大王製紙の生理用品を花王の生理用品であるかのように「誤解(混同)を生じるおそれ」があること<混同のおそれ>。

を立証しなければなりません。

花王がどのパッケージを問題にしているかはわかりませんが、両者のパッケージで色合いの似ているものをピックアップしてみました。

こちらが大王製紙のパッケージ。

(引用元:http://www.elleair.jp/products/menstrual/megami_suhada_super_wing_slim.php

そして、こちらが花王のパッケージ。

(引用元:http://www.kao.com/jp/laurier/lre_f_dayspecial_00.html?_ga=1.76619216.433331335.1493678032

この2つのパッケージ。似てると言えますか???

そもそも、生理用品という商品の性質上、パッケージのカラーや使う文字やは似てくるはずです。
例えば、カラーについては、清潔感のある白をベースにし、差し色もどぎつい色は避けてパステル調にするというのはよくありますよね。
使う文字にしても「超スリム」「生理中の…」「多い昼用」というのは商品の説明にすぎませんから似ていても当たり前。

これらの部分を除外した、それ以外のデザインが似ているかというと、かなり微妙ですよね。
花王の商品パッケージが生理用品を表示する表示として、すごく有名という根拠もなさそうです。

そうすると、(1)「商品表示性」を立証できたとしても、(2)「周知性」、(3)「類似性」、(4)「混同のおそれ」辺りを立証するのは、かなり厳しいのではないでしょうか?

ということで、私は花王の立証はさほど容易ではなく、この争いで苦戦を強いられるのではないかと予想しています。

まとめ

商標法と不正競争防止法は商品表示を対象とする点で似ているものの、その保護の形態が異なっています(権利創設と行為規制)。

そして、商標法に基づく訴えより、不正競争防止法に基づく訴えの方が立証のハードルが高いと言えます。
従って、出願手続きがないからと言って、不正競争防止法の方が商標法より使いやすい制度であるとは限りません。

両法の特徴を理解した上で、事案に即した制度を選択するようにしましょう!

おまけ

私は花王が苦戦するのではないかという予想をしましたが、仕掛けているのは花王です。
花王にも何らかの策や考えがあるはずなのです。
果たしてこの事件、今後どんな戦いが繰り広げられるんでしょうか?

要チェックです!

参考サイト

(*1)新聞報道
生理用品の販売差し止めを要求 花王が大王製紙に(日本経済新聞)

(*2)花王のプレスリリース
<お知らせ>大王製紙株式会社に対する生理用品「elis Megami 素肌のきもち」の販売の差止等を求める仮処分命令申立に関するお知らせ(花王 HP)

(*3)経済産業省の資料
逐条解説 不正競争防止法 第1部 総論 Chapter2 我が国法体系上の位置づけ

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