ハーバード大学で開発された自己修復性材料(ゴム素材)の自己修復の原理 ~発明の進歩性を認めさせるコツ~

クロスリンク特許事務所(銀座・東銀座・新橋)のヤマダです。

はじめに

発明が特許を受けるために不可欠な条件として発明の進歩性があります。この発明の進歩性の条件をクリアできると特許を取れる可能性がぐっと高まります。

今日はハーバード大学で開発された自己修復性材料を題材に、発明の進歩性を認めさせるためのコツについて解説します。

自己修復性材料とは

「自己修復性材料」とは、破損したり、傷ついたり、劣化したりした時に、自分の力で再生し、修復する性質を持つ材料のことです。

今日紹介する、ハーバード大学で開発された自己修復性材料はゴム素材です(*1,*2,*3)。ゴム素材には、時間が経つと劣化し、ひび割れたり、弾力性を失ったりして、品質や性能が低下するという問題があります。自己修復性のゴム素材はそれらの問題を解決することができる可能性があります。

自己修復の原理

従来、ゴム素材と言えば天然ゴムでした。天然ゴムはゴムの樹液から生ゴムを得、この生ゴムに硫黄を加えること(加硫)によって製造されます。生ゴムにはゴムの素となる鎖状の高分子(ポリイソプレン)が含まれています。加硫によって、複数のポリイソプレン分子が硫黄分子で繋がれ、橋架け(架橋)構造を形成することで弾力性のある天然ゴムを得ることができるのです。

ポリイソプレン分子と硫黄分子は「共有結合」という強い結合によって繋がれています。この共有結合は非常に強い結合で、結合を形成するために大きなエネルギーを必要とします。従って、時間の経過によって、共有結合が切断されてしまうと、自然に結合が再生されることはありません。

これに対し、ハーバード大学で開発された自己修復性材料は、共有結合に加えて「水素結合」という結合が導入された高分子です。水素結合は結合の強さが共有結合の1/10程度しかない弱い結合です。静電気的な力で分子同士を繋げる結合で、大きなエネルギーを必要とせず、小さいエネルギーで(例えば室温で)結合を切断したり、繋げたりすることができます。このため、水素結合は一旦切断されても結合を再生することができます。水素結合には可逆性があるのです。

発明の進歩性とは

ところで、特許を受けるための条件として大事なのが、発明の新規性と進歩性です。発明の新規性とは発明に客観的な新しさがあることを意味し、従来の技術(公知技術)と異なる技術であれば、新規性が認められます。これは比較的解りやすいですね。

一方、発明の進歩性とは公知技術からその発明を簡単に思いつくことができないことを意味します。発明が新しいだけでは不十分で、従来の技術から簡単に思いつかないような工夫がなされていなければ進歩性は認められないということです。こっちはなかなか難しいですね。

「簡単に思いつくかどうか?」の判断は人によって異なります。そのため、特許庁では進歩性を否定的に判断する(認めない)要素と肯定的に判断する(認める)要素を審査基準に公開しています(*4)。

進歩性を否定的に判断する要素としては、

● 最適材料の選択(従来技術の材料として最適な材料を選択しただけの発明)
● 数値範囲の最適化(従来技術の数値条件を最適化しただけの発明)
● 均等物による置換(従来技術の一部を同じようなもので置き換えただけの発明)
● 設計変更(従来技術の設計変更にすぎない発明)

等が挙げられます。例えば、従来技術では鉄製の部品を使っていて「錆びやすい」という問題があったとします。この場合に、その部品を構成する材料に錆び難い金属としてよく知られたステンレスやチタンを選択しただけの発明では進歩性を認められない可能性が高いということです。

一方、進歩性を肯定的に判断する要素としては、

従来技術と比較した有利な効果(従来技術からは予測できない効果を生ずる発明)
阻害要因(従来技術と組み合わせたら従来技術が機能しなくなると思われるような技術をあえて組み合わせた発明)

等が挙げられます。

今回の自己修復性材料には発明の進歩性があるか?

今回の自己修復性材料が、仮に日本に特許出願されたとした場合の進歩性の判断を予想してみます。

実はこの材料が発表される前にも、ゴムの高分子に水素結合を導入すれば自己修復性を付与することができるということは知られていました。しかし、水素結合は水を含むウエットなゴムでは結合力を発揮するものの、乾燥したゴム素材では結合力を発揮しないという問題がありました。即ち、乾燥したゴム素材として用いるゴムの高分子に水素結合を導入することには阻害要因があったわけです。

そこで、ハーバード大学の研究者たちは「ランダム分岐状ポリマー」という分子の紐を使って、水素結合と共有結合を結びつけるという技術を開発し、乾燥したゴム素材として用いるゴムの高分子に共有結合だけでなく水素結合を導入することに成功しました。即ち、この発明には従来の技術では実現できなかった「ゴムの高分子に共有結合だけでなく水素結合を導入し、乾燥したゴム素材に自己修復性を付与する」という有利な効果があると考えられます。

以上説明したように、この発明では阻害要因があったにも拘らず、「ランダム分岐状ポリマー」という全く新たな技術的手段を使って、「ゴムの高分子に共有結合だけでなく水素結合を導入し、乾燥したゴム素材に自己修復性を付与する」という有利な効果を生じさせることに成功したわけですから、発明の進歩性は認められると予想されます。

まとめ

発明の進歩性を出すためのコツは、

● 組み合わせることに阻害要因がある要素同士を組み合わせる(組み合わせの意外性)
● 従来技術からは予想できないような有利な効果を発生させる(顕著な効果)

ことです。

誰もが思いつくようなありきたりのもの同士を組み合わせるのではなく、「えーっ!それとそれを組み合わせるの???」という組み合わせの意外性や、「お~っ!今までのとはダンチだねー!」と驚かれるくらいの顕著な効果を発生させることが、発明の進歩性は認めさせるための早道です。

参考サイト

(*1)自己修復性をもち、透明性と高強度を両立したゴム素材(PC Watch)

(*2)パンクしても自己修復しちゃうタイヤも夢じゃない。ハーバード大がまったく新しいゴムを開発(GIZMODE)

(*3)Harvard researchers develop tough, self-healing rubber(Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences)

(*4)特許・実用新案審査基準 第Ⅲ部 第2章 第2節 進歩性(特許庁)

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