ティラミスヒーロー・ロゴパクリ事件に学ぶ、商標の本質・商標登録の意味

クロスリンク特許事務所(銀座・東銀座・新橋)・弁理士のヤマダ(@ta2_ymd)です。

はじめに

先日、妹ちゃんに会った時に「ティラミスヒーローの話、書かないの?」と言われました(笑)

この事件に関しては既に色々な方が記事を書いています。
今更、事件の細かい経緯を書くつもりはありません。
ただ、この事件は商標の本質や商標登録の意味を考えるのにとても良い題材なんですよね。

今日はティラミスヒーロー事件を題材に、商標というものをじっくり考えてみましょう!

ティラミスヒーロー・ロゴパクリ事件に学ぶ、商標の本質・商標登録の意味

最初に、ティラミスヒーロー・ロゴパクリ事件について簡単に復習しておきましょう。

 

ティラミスヒーロー・ロゴパクリ事件

シンガポール発のティラミス専門店「ティラミスヒーロー」が日本に進出。
しかし、第三者である株式会社gram(以下、「g社」)に猫のキャラクター・アントニオのイラストを使ったロゴマークを商標登録されてしまい、オリジナルのロゴマークを使用することができなくなってしまった事件。

▲ g社の登録商標(特許情報プラットフォーム:商標登録6073226の登録公報より引用)

 

▲ ティラミススター(元・ティラミスヒーロー)公式Twitterより

 

g社は、商品ティラミスについて、「ティラミスヒーロー」の文字も商標登録出願しています(商願2018-25681)。
こちらについては未だ審査中であり、商標登録はされていません。
しかし、本家ティラミスヒーロー側は名称を「ティラミススター」に変更し、営業を継続しています。

 

それでは、この事件を題材に、商標の本質や商標登録の意味を考えていきます。

(1)商標とは

商標とは、商売のために使う標識のことです。

商標には、商品について使用する商品商標(トレードマーク<TM>)と、役務(サービス)について使用する役務商標(サービスマーク<SM>)があります。

商標の態様としては、文字、図形、記号、立体的形状、色彩、これらを組み合わせたもの等が挙げられます。
最近、新しいタイプの商標として、色だけの商標、音商標、動き商標、位置商標、ホログラム商標等の商標登録も可能になりました。

新しいタイプの商標については、こちらをご覧ください。


 

今回の事件で問題になったg社の商標では、その使用対象として、「ティラミス」等の商品、「飲食物の提供」等の役務(サービス)を指定しています。即ち、この商標は商品商標であり、役務商標でもあるということです。

そして、この商標はイラストが入ったロゴマークですから、図形商標ということになります。

(2)商標を登録して保護する理由

国が商標登録により、商標を護ってくれるのは何故か?

それは、商標を付けて良い商品や良いサービスを提供していくと、商標の上にお客様や社会からの信用が乗っかってくるからです。
商標法で護ろうとしているのは、商標そのものではなくて、商標の上に乗っかった信用なのです。

逆に言えば、信用が乗っかっていない商標は単なる文字や図形にすぎず、それ自体に価値はありません。
それが、仮に有名コピーライターに作ってもらった名前でも、今をときめく新進気鋭のデザイナーに作ってもらったロゴマークでも。
商標の世界では、それらは「選択物」、世の中にある文字や図形の中から選び出してきたものにすぎず、創作的な価値はないという扱いなのです。

一方、特許の対象である発明、実用新案登録の対象である考案、意匠登録の対象である意匠(製品デザイン)。
これらは「創作物」と言われています。創作したこと、それ自体に価値があると認められているわけです。

「創作物」と「選択物」の違いが如実に表れるのは、出願前の扱いです。
誰かが創作した発明、考案、意匠を第三者が勝手に出願しても特許権等を取ることはできません。その第三者は真の創作者ではなく、正当な権利者とはなり得ないからです。
こういう出願は「冒認出願」と言って、不適法な出願として拒絶されるし、間違って特許権等が与えられてしまった場合でも、その特許・登録を無効にしたりすることができるようになっています。

しかし、誰かが考えた名前やロゴマークを第三者が勝手に出願をしても商標権を取ることができてしまいます。
商標は作ったことそれ自体には価値はなく、その商標を出願する前の段階では誰のものでもないものとして扱われるからです。
その商標を出願することで、初めてその人のものと認識され、唾を付けることができるというわけです。

だから、本来、誰のものでもない商標を独占したいと思ったら、出願という手続きをしなければいけません。
ざっくり言ってしまえば、商標を出願する前の段階においては「パクリ」という概念はないということです。

「私が先に考えたのにパクられた!」
「私が先に使っていたのに乗っ取られた!」

そういう文句を言う人が後を絶ちません。
でも、残念ながら商標の世界ではそういう文句は通用しないんですよね。

 

今回の事件では、本家ティラミスヒーローは2013年(平成25年)から日本に進出していたにも拘らず、商標登録の出願をしていませんでした。
g社がこの商標を出願したのは2017年(平成29年)。かなり時間が空いています。

世間一般の人々、特にネット民は本家ティラミスヒーローに同情的で、g社を袋叩きにしています。
でも、弁理士の大半はこう思っているでしょう。

あーぁ。やっちゃった。何やってんのよ…(苦笑)

 

本国シンガポールで繁盛し、日本にまで進出してくる程の企業が商標対策を怠っていた。しかも4年もの間。
これは一般の人ならいざ知らず、ビジネスの世界では「脇が甘すぎ!」という誹りを免れないと思いますよ。

(3)先願主義(早い者勝ち)を採用している理由

ここまで説明してきても、まだ何となくモヤモヤしている人も多いでしょうね(笑)

地道に商売して信用を積み重ねてきた人が悪い輩のために損をするのってどうなの?
信用を護るというなら、先願主義(先に出願した者勝ちの制度)なんてやめてしまえばいいのに!

 

そう思っている人もいるでしょう?

過去にこういう人もいたしね(笑)




 

でも、先願主義は悪い制度ではないです。
というか、かなり合理的な制度だと思いますよ。

 

先願主義と対立する考え方としては、先使用主義という考え方があります。
先に出願した人に商標権をあげるのではなくて、先に使い始めた人に商標権をあげようという考え方です。

「そっちの方がいいじゃん!」と思うかもしれませんが、事はそれほど単純ではありません。

先に使い始めた事実を証明する事。
2つの似た商標があったときにそのどちらに商標権を与えるべきか正しくジャッジする事。

これは実際問題としては、かなり難しいんですよ。

皆さんがニュースで目にするのは、「ティラミスヒーロー」のような有名店の商標をパクられたケースが多いですよね。
だから、使用の開始時期等も比較的わかりやすいかもしれない。
でもそれは極めて例外的なケースなんです。

日本で登録されている商標の中にはさほど有名でない企業や個人の商標も相当数含まれます。
それらについて使用の事実を調べるのはかなり大変です。
できたとしても相当の時間を必要とするでしょう。
出願された商標の全てについてそんなことをやっていたら、商標の審査は全く進まなくなってしまいます。
大混乱ですよ。

それに実際に使用していないと商標権が取れないとすると、これから事業を始めようとする人は前もって商標権を取れないことになってしまいます。
すごく不安定な状態で商売を始めないといけない。

だから、特許庁に商標が出願された日を基準にしているわけです。
これなら特許庁の審査官もわかりやすいですよね。

 

本家ティラミスヒーローは日本に進出することが決まった時点で商標を出願していれば何の問題もなかったはずです。
先願主義の制度自体が悪いというわけではありません。

ごく一部の悪い奴のために基本的なルールを変えると、他の大多数の人が窮屈な思いをするんです。
だから、先願主義という基本的なルールはそのままにして、悪い輩を例外的に処理するルールを作った方が合理的だと考えます。

まとめ

今日は商標制度の根幹に関わる部分を説明してみました。
結構、普遍的で骨太な記事になったんじゃないかな。
長く読み続けられる記事になったら嬉しいです。

この事件はまだまだ語りたいことが多いので、続編を書くかもしれません。

オススメの記事

商標についてもっと知りたい方はこちらの記事もどうぞ。




 

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プロフィール

山田 龍也(やまだ たつや)
山田 龍也(やまだ たつや)
ものづくりとブランドづくりの専門家/弁理士/ブロガー。
中小製造業のものづくり、個人事業主のブランドづくりを支援中。
特許・実用新案・意匠・商標の権利取得手続; 知財戦略・商品の差別化戦略の立案; 商品の企画・開発に関するアドバイス; 情報発信を用いたブランディング・マーケティング; が得意。
 

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