登録商標「断捨離」を勝手に使うな騒動から学ぶ商標の基礎知識(3)|登録商標の使用義務

今回は、やましたひでこさんの登録商標「断捨離」を勝手に使うな騒動を題材に、商標の基礎知識を解説するシリーズの第3回。

今日のテーマは「登録商標の使用義務」です。

目次

登録商標「断捨離」を勝手に使うな騒動について

この騒動についてご存じない方は、まずこちらをご覧ください。

【関連記事】「断捨離」は商標登録されている|普通名称のように見えて商標登録されている名称

商標は使えば使うほど価値が出る

センスの良い言葉やカッコいいマーク。
新しさを感じる「商標」は魅力的に思えます。

でも、実は「商標」は、古ければ古いほど価値があるのです。

「商標」の価値は「商標」の上に蓄積した業務上の信用にあります。
そして、業務上の信用は「商標」を商品やサービスとともに使うことによって初めて蓄積されます。

だから、昔から使い続けられてきた古い「商標」の方が業務上の信用がたくさん蓄積されているということです。
例えば、天保元年創業、江戸時代から今までずっと使い続けている商標なんて、めちゃくちゃ価値が高いわけです。

一方、

● 特許の対象となる発明(技術に関する高度なアイデア)
● 実用新案登録の対象となる考案(技術に関するアイデア)
● 意匠登録の対象となる意匠(製品デザイン)

等の創作物は新しいことに価値があります。

創り出された時が一番価値が高くて、時間が経つとその価値が下がっていく。
古臭い技術や流行遅れのデザインに魅力はないですからね。

古いことに価値がある商標と、新しいことに価値がある創作物。
この違いが如実に現れるのがそれぞれを保護する権利の存続期間です。

特許権は出願してから20年、実用新案権は出願してから10年、意匠権は登録されてから20年。
創作物に関する独占権には終わりがあります。
創作物は古くなると価値がなくなる。
だから、一定の期間が経過したら権利を消滅させて、誰でも自由に使えるようにするわけです。

商標権は登録されてから10年ですが、何度でも更新をすることができます。
更新を続ける限り、権利が消滅することはなく、ずーっと独占し続けることができる(半永久権)。
商標は使えば使うほど価値が出てくるから、消滅させる理由がないんです。

商標登録の際には商標の使用意思を求められる

このように、商標と使用は切っても切れない関係にあります。

商標法には、商標の使用に関し、以下のような規定があります。

(商標法第3条から抜粋)

自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、・・・商標登録を受けることができる。

ざっくり言えば、自分で使うつもりがない商標は登録してあげないよ、という意味です。
商標を登録するにあたって、商標の使用意思を求めているわけです。

この規定は、自分では使う気がないのに、

● 他人に使わせないことのみを目的として商標権を取得する行為
● 他人に売りつけることを目的として商標権を取得する行為(ブローカー行為)

を排除するという意味合いがあります。

今まで説明してきたように、商標は使ってなんぼ。
使わないと価値が出てきません。

そして、このシリーズの第1回でも説明したように、商標は創作物ではなく、選択物として扱われています。
「数に限りがあるもの(有限)」と考えられているということです。

だから、限りある商標は自分の商売に使う意思を持っている人にだけ登録を認めてあげようという決まりになっているわけです。

登録商標の使用義務に違反すると、商標登録を取り消される(不使用取消し)

繰り返し言いますが、商標は使用して初めて価値が出てくるものです。

このため、商標を出願し、無事に商標登録を受けた後にも、その登録商標には使用義務が課されます。
せっかく登録してあげたんだから、きちんと使ってくださいね、ということです。

「義務」の裏側には、「義務」を果たさなかった場合のペナルティー(制裁)があります。
不使用の場合の商標登録の取消です。

不使用取消はこんな風に規定されています。

(商標法第50条から抜粋)

継続して三年以上 / 日本国内において / 商標権者・・・が /
各指定商品又は指定役務についての / 登録商標の使用をしていないときは、 /
何人も、 / その指定商品又は指定役務に係る商標登録を / 取り消すことについて /
審判を請求することができる。

(注)読みやすくするため、スペース・スラッシュ・改行を加えています。

商標登録を受けた後、三年以上使っていない商標については特許庁に取り消しを求めることができる、ということです。
商標を使っていなくても特許庁が自動的に商標登録を取り消すことはしません。
でも、誰かから求めがあれば、本当にその商標は使われていなかったのか、証拠に基づいて判断してくれるということです。

現状、やましたさんは「断捨離」に関し、5つの商標権を持っています(商標登録第4787094号同第5412928号同第5582468号同第5909022号第5948115号)。
そして、これらの商標権の各々に、多数の商品・役務が指定されています。

因みに、商標登録第5909022号の指定商品・指定役務を見てみると、

第 5類 衛生マスク,・・・眼帯,・・・,生理用タンポン,生理用ナプキン,・・・,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,・・・
第 7類 農業用機械器具,電気洗濯機,・・・,食器洗浄機,・・・,電気掃除機,・・・
第11類 製パン機,・・・,ごみ焼却炉,・・・,電球類及び照明用器具,・・・,家庭用浄水器

これらはごく一部です。
他にも、実に様々な商品・役務を指定しています。

やましたさんは、これらの商品・サービスの全てを商売の対象としているんでしょうか?
そして、これらの商品・サービスについて登録商標「断捨離」を使っているんでしょうか?

かなり疑問ですよね。

仮に、やましたさんがこれらの商品・サービスについて登録商標「断捨離」を使っていないとしましょう。
その場合、商標登録第5909022号の商標権は、単に他人に「断捨離」を使わせないことのみを目的として取得された商標権と言わざるを得ません。

そうすると、商標登録第5909022号について、誰かが商標登録の不使用取消審判を請求すれば、商標登録が取り消される可能性は十分あるでしょうね。

他の4つの商標登録にも、明らかにやましたさんのビジネスとは無関係と思われる商品・役務が多数指定されています。
これらについても商標登録が取り消される可能性はかなり高いと言えます。

まとめ

今日のポイントをまとめてみると、以下のとおりです。

(1)商標は使えば使うほど価値が出る。だから、商標権の存続期間は何度でも更新できる(商標権は半永久権)
(2)商標登録の際には商標の使用意思を求められる。他人に使わせないため、他人に売りつけるために商標権を取得することは許されない
(3)登録商標の使用義務に違反すると、商標登録を取り消される(不使用取消し)

今回書いたことは、やましたさんだけの問題ではありません。

商標登録が済むと、安心してしまって登録商標をろくに使っていない人が少なくありません。
商標をきちんと使っていないと、ブランドは育ちません。
下手すれば、商標登録を取り消されてしまいますよ!

このシリーズ、まだまだ続きます。

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