登録商標「断捨離」を勝手に使うな騒動から学ぶ商標の基礎知識(4)|商標の普通名称化

中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、弁理士の山田龍也(@ta2_ymd)です。

登録商標「断捨離」を勝手に使うな騒動から学ぶ商標の基礎知識(4)|商標の普通名称化

この記事は「商標登録・基本のキ」というカテゴリーの記事です。

商品名やサービス名、お店の名前や会社の名前。
せっかく付けた名前を護り、ビジネスを大きくしていくためのツールが商標権です。

でも、商標権・商標登録の仕組みは一般の方にはなかなか分かりにくい…。

そこで、このカテゴリーではこれから商標登録に取り組もうとする方に、できるだけわかりやすく商標登録の仕組みを解説していきます。

今回は、やましたひでこさんの登録商標「断捨離」を勝手に使うな騒動を題材に、商標の基礎知識を解説するシリーズの第4回(最終回)。

今日のテーマは「商標の普通名称化」です。

登録商標「断捨離」を勝手に使うな騒動について

この騒動についてご存じない方は、まずこちらをご覧ください。

登録商標「断捨離」を勝手に使うな騒動から学ぶ商標の基礎知識(1)|商標とは?

私の疑問。「断捨離」は、本当に「普通名称化」しているのか?

ネット上ではこの事件に関し、

「断捨離」は商標登録されているけれども、もはや「普通名称化」している。
それなのに、商標権を振りかざして警告をするなんてけしからん!

 

といった趣旨の主張をよく見かけます。

これは一般の方だけが言っているのではありません。
専門家である弁理士の中にも、これと同旨のコメントをしている方がいます。

でも、なんかしっくりこないんですよねー(笑)
私はこの主張はどこかおかしい気がしています。

この私の中にある違和感の正体を探るべく、「商標の普通名称化」とは何か?
これを今一度、確認してみたいと思います。

「普通名称」とは何か?

「商標の普通名称化」の前に、まず、「普通名称」とは何かについて確認しておきましょう。

知的財産に関する専門書「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」には、「普通名称」について以下のような記載があります。

「取引界において / その名称が / 特定の業務を営む者から流出した商品又は・・・役務 / を指称するのではなく、 / その商品又は役務の一般的な名称である / と意識されるに至っているもの」

 

引用元: 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 第20版 1398頁、商標法第3条の説明より

(注): 「役務」は「サービス」を意味します。読みやすくするため、スペースとスラッシュを加えています。

 

ざっくり言えば、その名称が、A社の商品名、B社のサービス名とは認識されておらず、その商品またはそのサービスの一般的な名称と認識されているもの。

これが普通名称です。

 

同頁には、普通名称の具体例として、以下のものが掲げられています。

「例えば、商品『時計』について『時計』、役務「航空機による輸送」について『空輸』等」

 

「時計」の一般的名称は「時計」。
「航空機による輸送」の一般的名称は「空輸」。

当たり前ですよね。
特に難しいところはありません。

「商標の普通名称化」とは何か?

次に、「商標の普通名称化」について確認してみましょう。

商標権を持っている人にとって、「商標の普通名称化」は頭が痛い問題です。
登録商標が普通名称化してしまうと、他人が商標権の範囲内で許可なく登録商標を使っても、商標権の効力を及ぼすことができなくなる(商標権侵害だと言えなくなる)からです。

 

この点について、商標権の効力が及ばない範囲について規定している商標法第26条第1項には、以下のような記載があります。

商標権の効力は、次に掲げる商標・・・には、及ばない。

一 ・・・指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称・・・を普通に用いられる方法で表示する商標

二 ・・・指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称・・・を普通に用いられる方法で表示する商標

 

(注): 「指定商品」、「指定役務」とは、商標登録を申請する際に、この商標はこの商品・このサービスに使いますと宣言した商品・サービスのことです。

 

「商標の普通名称化」については、ウィキペディアにこんな記載があります。

「商標としての機能・・・を有していた名称が、徐々にその機能を消失させ、需要者(取引者、最終消費者)の間でその商品や役務を表す一般的名称として意識されるに至る現象」

 

引用元: ウィキペディア|商標の普通名称化

 

ざっくり言えば、

その名称は、最初はA社の商品名、B社のサービス名と認識されていた。
でも、例えば一般人がその名称をその商品またはそのサービスの一般的な名称として使っていた。
その結果、その名称が本当にその商品またはそのサービスの一般的な名称と認識されるようになってしまった。

この現象が「商標の普通名称化」です。

 

元々は特定の企業等が商標として使っていたのに、普通名称化してしまった名称の例としては、

● 「巨峰」 ⇒ ぶどうの一品種を表す一般的な名称
● 「正露丸」 ⇒ クレオソートを主剤とした整腸剤を表す普通名称
● 「エスカレーター」 ⇒ 自動式階段を示す普通名称
● 「ホッチキス」 ⇒ ステープラー(紙綴器)を示す普通名称

等があります。

検証:「断捨離」は、本当に「普通名称化」しているのか?

では、今日の本題、「『断捨離』は、本当に『普通名称化』しているのか?」について検証していきます。

「断捨離」が普通名称化しているという主張の論拠は、

「断捨離は新しい片付けの概念、モノへの執着を捨てる考え方、として世の中に広く知られている」

 

という点だと考えられます。

 

しかし、先程確認したように、商標が「普通名称である」、「普通名称化した」と言えるためには、

その名称が、その商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っている

 

ことが必要です。

仮に、一般消費者の間で「宅急便」がヤマト運輸の宅配サービスではなく、宅配サービスの一般的名称であると認識されるに至ったとしましょう。
この場合には、商標「宅急便」は普通名称化した、と言えるわけです。

 

一方、「断捨離」はどうでしょうか?

「断捨離」は、何かの商品やサービスの一般的な名称になっていますか?

なっていませんよね。

「断捨離」は、単に概念を示す言葉として有名なだけで、商品名やサービス名として有名になったわけではないのです。

そうすると、商標「断捨離」が「普通名称化」したとは言えません。

 

以上のことから、

「断捨離」は商標登録されているけれども、もはや「普通名称化」している。
それなのに、商標権を振りかざして警告をするなんてけしからん!

 

という言い方は誤りである、というのが私の中での結論です。

 

もう一歩、踏み込んでみましょうか。

この事件の問題点は、やましたさんが既に普通名称化してしまった登録商標に基づいて商標権を行使する姿勢を見せたことではありません。
「断捨離」を「商標」(商売の看板)として使ったわけではない人に、商標権を振りかざそうとしていることです。

ブロガーやYoutuberは、ブログや動画の中で、片付けを意味する言葉として「断捨離」を使っていると考えられます。
そうすると、そこでの「断捨離」は、単に内容を説明してるにすぎず、自分の商品・サービスと、他人の商品・サービスを区別する(識別する)ために使っているわけではありません。

ここでの「断捨離」は、商標の本来的な機能である識別機能(機能)を発揮しておらず、「商標」とは言えないのです。
使っているのが「商標」ではないということになると、「『商標』を使うな!」という、やましたさんの主張は完全に筋違いとなります。

専門用語では、

ブロガーやYoutuberは「断捨離」を商標的使用態様で使っているわけではないから、商標権侵害は成立しない

 

なんて言い方をします。

まとめ

今日のポイントをまとめてみると、以下のとおりです。

(1)「普通名称化した」というためには、その商品・サービスの一般的な名称と認められていることが必要
(2)「断捨離」は、普通名称化したとは言えない(商品・サービスの一般的名称にはなっていない)
(3)ブロガーやYoutuberは「断捨離」を商標的使用態様で使っているわけではないから、商標権侵害は成立しない

 

この「断捨離」問題。
「商標」を扱う時の問題点を再認識させてくれたという点で意義があったと思います。

これから商標登録をしようと考えている人、既に登録商標を持っている人も、「商標の普通名称化」には要注意です。
商標の使い方に気をつけないと、いざという時に商標権を使えなくなってしまいますからね。

商標登録が済んだ途端、音信不通になる人がいます(苦笑)
弁理士さんと定期的に連絡を取らないと、痛い目に遭いますよ!

4回に渡ってお届けしてきた「断捨離」シリーズはこれにて完結。
次のネタを考えます。

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商標登録の意味について知りたい方はこちらもどうぞ!



 

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プロフィール

山田 龍也(やまだ たつや)
山田 龍也(やまだ たつや)
ものづくりとブランドづくりの専門家/弁理士/ブロガー。
中小製造業のものづくり、個人事業主のブランドづくりを支援中。
特許・実用新案・意匠・商標の権利取得手続; 知財戦略・商品の差別化戦略の立案; 商品の企画・開発に関するアドバイス; 情報発信を用いたブランディング・マーケティング; が得意。
 

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