はじめに
中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、弁理士の山田龍也(@sweetsbenrishi)です。
この記事は、「特許権・実用新案権で護る(技術)」のカテゴリーに属する記事です。
製造業のブランドづくりに役立つのが特許や実用新案です。
固有の技術を基にしてブランドづくりに取り組んでいきたい中小企業様に役立つ内容です。
今日、ご紹介するのは、とあるサイトに掲載された、味噌ラーメンに関する特許?
この「味噌ラーメン特許」は果たしてどんな特許なのか。
その出願書類には何が書かれているのか。
じっくり検証してみました!
特許番号20161125-1「味噌ラーメン」?|謎の特許の出願書類を弁理士が解説!
【1】話題の味噌ラーメン特許の正体
話題の書類がこれです(一部抜粋)。
「特許番号20161125-1 【発明の名称】味噌ラーメン」と書いてあります。
実はこれ、グルメサイトの「食べログ」に投稿された「特許庁第ニ食堂 めん屋きゃら亭」のレビューなんです(笑)
「特許庁の食堂のレビューだから、特許の書類の体裁で書いてやるか( ̄ー ̄)ニヤリ」という投稿者さんのシャレだったんですね。
というわけで、これは架空の特許です。こんな特許はありません。
ただね。
小難しい特許についてザックリと理解してもらうには格好のネタです!
今回はこの「書類」を検証しながら、特許の出願書類の書き方について説明したいと思います。
【2】<予備知識>特許を出願する時に提出する主な書類
特許を出願するときにどんな書類を提出するか知らない人も多いと思います。
主な書類には、願書、明細書、特許請求の範囲、図面、要約書があります。
これらの書類の中で最も重要なのが「特許請求の範囲」です。
「特許請求の範囲」には、
● 特許審査の対象となる発明を定める
● 特許権の対象となる発明の範囲を定める
という大事な役割があります。
このため、「特許請求の範囲」の書き方を間違えると、
● 本来、特許を受けられるはずの発明が特許を受けられなかった
● もっと広い範囲の特許権を取れるはずだったのに、狭い範囲の特許権しか取れなかった
ということが起こるのです。
【3】特許番号20161125-1の「特許請求の範囲」の記載を検証する
特許番号20161125-1の書類にも「特許請求の範囲」に相当する部分が記載されています。
【請求項1】から【請求項13】の部分です。
請求項1について検証します。
【請求項1】小麦粉を原料とする中華麺を用いたラーメンにおいて、スープの原材料に味噌を用いたことを特徴とするラーメン。
(1)請求項
「請求項」には特許を受けたい発明が1つずつ記載されています。
そして、「請求項」には発明を成立させるために必要な条件が書かれています。
特許請求の範囲には、請求項1に最も限定条件が少ない、広い概念の発明を記載して、請求項2以降で徐々に具体的な限定条件を足していく階層構造にすることが一般的です。
(2)前提項
「・・・において」までの部分を「前提項」と言います。
「前提項」には、その発明の前提条件を記載します。
請求項1の発明は「小麦粉を原料とする中華麺を用いたラーメン」が前提ですから、
● 小麦粉以外を原料とする麺を用いたもの
● 中華麺以外の麺を用いたもの
● ラーメンではない麺料理
については特許を請求していないことになります。
(3)特徴項
「・・・において」より後ろの部分を「特徴項」と言います。
「特徴項」には、その発明の最も特徴的な部分、従来の発明とは違う部分を記載します。
この「特徴項」に何を書くかによって特許を受けられるかどうかが決まると言ってもいいでしょう。
請求項1の発明は「スープの原材料に味噌を用いた」ことを特徴としています。
でも、これは従来の味噌ラーメンと何ら変わりがありませんよね?
こういう場合、請求項1の発明は「新しさ(新規性)がない発明」と判断されて、特許を受けることができません。
広い特許権を取りたいからといって、限定条件を減らそうとする人がいます。
でも、あまりに限定条件を減らしてしまうと、従来の発明と区別がつかなくなってしまうのです。
請求項1には少なくとも従来の発明と区別がつくような限定条件を加えて、少なくとも新しさ(新規性)を出しておいた方がよいですね。
(4)課題や効果との関係
発明は従来の技術では解決することができなかった課題を解決する手段です。
そして、発明はそれを実施することで一定の技術的効果を奏することが必要です。
即ち、請求項に記載された発明は、課題や効果と結びついていなければいけないのです。
この味噌ラーメン特許の書類には、
「発明が解決しようとする課題」の項に、
本発明は…味噌ラーメンを低コストで食べることができる店を見つけ、その情報を広く世間に周知させることを目的としている。
と記載され、「発明の効果」の項に、
…味噌ラーメンを、都内のラーメン屋と呼ばれるお店に比べて、低コストで良心的な分量を食べることができる。
と記載されています。
そして、請求項1の発明は「スープの原材料に味噌を用いたこと」を特徴としています。
しかし、「味噌を用いたこと」によって、「味噌ラーメンを低コストで食べることができる店を見つけ」られるわけではないし、「低コストで良心的な分量を食べることができる」というわけでもありません。
この書類では発明の内容と、課題、効果の記載がズレているということです。
例えば、従来は豚骨ラーメンしかなかったときに、味噌ラーメンを発明したとすると、こんな風に書けば、課題と効果が結びつきます。
「発明が解決しようとする課題」
豚骨ラーメンは濃厚でこってりとした味わいがあるものの独特の臭みがあった。
「発明の効果」
「味噌を用いたこと」によって、豚骨スープの濃厚でこってりとした味わいを残しつつ、豚骨固有の臭みを抑えることができる。
発明の内容、課題、効果の三位一体!
これが美しい特許出願の書類です。
このような書類は流れがよく、発明のポイントがわかりやすいので、説得力が出てきます。
特許庁の審査官の心象も良くなるので、特許を取る可能性を高めるのに役立ちます。
(5)発明の対象
この発明の対象は請求項1の文末に書いてある「ラーメン」です。
一方、発明の名称は「味噌ラーメン」となっていて、言葉が一致していません。
発明の名称を「ラーメン」とするか、請求項1の記載を、
「小麦粉を原料とする中華麺を用い、スープの原材料に味噌を用いたことを特徴とする味噌ラーメン。」
のような記載にした方がスッキリします。
(6)おまけ
因みに、一つの特許出願の書類に「請求項」はいくつでも書くことができます。
100個でも200個でも。
実際に、特許調査をしている時に、請求項が200近くある出願書類を見たことがあります(うんざり)。
ただ、請求項の数が増えると、特許庁の手数料も弁理士さんの書類作成料も上がりますので、ご注意を。
まとめ
「味噌ラーメン特許」はあくまでお店のレビューとして書かれたものです。
実際の特許出願の書類ではないので、特許出願の書類風に書いてあればいいのです。
大人気なく、真面目に検証してしまって、どーもすいません(笑)