特許出願の早期審査。そのメリットとデメリット、早期審査に必要な条件

中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、弁理士の山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

目次

はじめに

特許の出願をしても、すぐに特許権をもらえるわけではありません。

特許出願の書類を「人」に例えるなら、まず特許庁の審査官に審査をしてもらうための列に並び、そこで順番待ちをし、自分の順番が来たところで漸く審査をしてもらえます。
特許の審査には長い時間がかかるのです。

今日は、審査の順番待ちの列に横入りして、通常より早く審査結果を知らせてもらえる特許出願の早期審査制度についてお話しします。 

特許出願の早期審査。そのメリットとデメリット、早期審査に必要な条件

早期審査制度は、一定の条件を満たす場合に、出願人からの申請を受けて審査を通常に比べて早く行う制度です。

(1)早期審査制度を設けた理由

何故、早期審査制度があるのでしょうか。

それは、通常、特許出願の審査結果が出るまでには長い時間がかかるからです。

特許は出願書類を提出(出願)しただけでは内容を審査してもらえません。
内容を審査してもらうためには、出願の後に「出願審査請求」という手続をする必要があります。
「出願審査請求」は特許庁に対して「審査に着手してください」とお願いする手続です。

「出願審査請求」をすることで漸く審査をしてもらうための列に並んだということになります。
しかし、自分の出願書類の前には、先に出願審査請求を済ませた他の人の出願書類が行列を作っています。
この人達の審査が終わらなければ審査をしてもらうことができません。
特許の審査には審査順番を待つ「待ち時間」があるのです。

出願審査請求をした後の「待ち時間」と、審査官が実際に出願内容を審査する期間を合わせると平均10.4ヶ月かかっているというデータがあります(2013年実績。特許行政年次報告書2016年版より)。

これに対し、早期審査を認められた場合には、早期審査の申請から平均2.3ヶ月で審査結果が通知されています(2015年実績。特許行政年次報告書2016年版より)。

早期審査制度を使うと、特許の審査順番を待つ「待ち期間」を短縮し、早期に審査に着手してもらうことができます。
言ってみれば、審査の順番待ちの列に横入りすることができ、通常の審査と比較して、極めてスピーディーに審査結果を通知してもらえるのです。

なお、ここで言っている「審査結果」とは「一次審査の結果」を意味します。
特許の審査では一次審査の結果に基いて出願書類を補正し、再度、審査官に審査をしてもらうこともよくあります(二次審査)。
最終的な審査結果が出るのはその後です。

即ち、前記の期間は最終の審査結果が出るまでの期間ではない点にご注意ください。

(2)早期審査のメリットとデメリット

早期審査のメリットは

● 特許の審査順番を待つ「待ち期間」を短縮し、早期に審査に着手してもらえること
● 特許の審査結果を通常より早くもらえること

です。

但し、早期審査にはデメリットもあります。例えば、

● 発明の内容が早期に公開される可能性があること
● 審査結果が早期に確定してしまうと、出願書類の補正や国内優先権を主張した出願ができなくなるケースがあること

はデメリットと言えます。

発明の内容が早期に公開されてしまうと、新たな改良発明を特許出願しても、その改良発明について特許を取れなくなるケースが出てきます。
既に公開されてしまった自分の発明によって改良発明の新規性や進歩性が否定される可能性があるからです。

また、審査結果が確定してしまうと、早期審査を申請した出願の書類を補正することはできなくなりますし、その出願に基いて国内優先権を主張した新たな出願をすることもできなくなります。

「特許を早く取る」というのは良いことばかりのように思えます。
しかし、自分の会社の状況や業界の状況を見ながら柔軟な特許戦略を立てる、という意味では足かせになる場合も少なくないのです。

従って、早期審査はその出願だけではなく今後の出願や特許戦略についても配慮し、申請する必要があるという点に注意が必要です。

(3)早期審査の条件

早期審査には条件があります。

① 出願審査請求をしていること

出願審査請求をしていないと早期審査を申請することができません。

出願審査請求の手続は特許出願の日から3年以内に、出願審査請求書を提出することにより行います。
その際、特許庁に出願審査請求料を納付する必要があります。出願審査請求料は118,000円+(請求項の数<発明の数>×4,000円)です(中小企業の場合は減免制度を使えるケースもあります)。

なお、弁理士さんに手続を依頼すると、別途、代理人手数料がかかる場合があります。

② 出願の種類

以下の出願でなければ早期審査の対象となりません。

a)実施関連出願

例えば、出願人自身がその特許出願の対象である発明を

● 既に実施している、あるいは、
● 「早期審査に関する事情説明書」の提出日から2年以内に実施する予定である

特許出願等

b)外国関連出願

出願人がその発明について、日本国特許庁以外の特許庁又は政府間機関へも出願している特許出願

c)中小企業等の出願

その発明の出願人の全部又は一部が、

● 中小企業
● 個人

等である特許出願

ここに言う「中小企業」とは、中小企業基本法に定められた中小企業です。
従業員数や資本額の基準を満たしている必要があります。
例えば、製造業の場合、従業員数が300人以下であるか、資本の額が3億円以下であることが条件です。

中小企業等の出願については、早期審査の提出書類の条件が緩和されるケースがあります。
ご自分の会社が「中小企業」に該当する場合には、実施関連出願等であっても、中小企業等の出願であることを理由として早期審査を申請する方が書類の作成が楽になります。

d)その他

その他、グリーン関連出願、震災復興支援関連出願、アジア拠点化推進法関連出願についても早期審査の対象となる場合があります。

③ 早期審査の申請に必要な手続

早期審査を申請する場合には「早期審査に関する事情説明書」を提出します。

「早期審査に関する事情説明書」には、

● 書誌的事項(提出日、早期審査を申請する特許出願の番号、提出者等)
● 早期審査に関する事情説明(早期審査のガイドラインに定める中小企業であること等)
● 先行技術の開示及び対比説明

等を記載します。

中小企業等の出願以外の出願については予め先行技術調査を行う必要があります。

一方、中小企業等の出願については先行技術調査を行う必要はなく、自分が知っている文献を記載すればよいことになっています。
中小企業等の出願については「先行技術の開示及び対比説明」の部分の記載条件が緩和されているということです。

④ 早期審査を申請することができる期間

出願審査請求をした後であればいつでも早期審査を申請することができます。

⑤ 早期審査を申請するための費用

特許庁の手数料は無料です。

但し、弁理士さんに手続を依頼する場合には、別途、代理人手数料が必要となる場合がありますのでご注意ください。

特許庁の資料集

更に詳しいことが知りたい方は特許庁の以下のページに詳しく説明されています。
そちらも参照してください。

特許出願の早期審査・早期審理について

早期審査・早期審理(特許出願)についてのQ&A

特許出願の早期審査・早期審理ガイドライン

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