カラオケ歌唱動画をYouTubeに投稿した男性が著作権法違反で敗訴。SNS上の「歌ってみた」「弾いてみた」「踊ってみた」アウトとセーフの判断基準

中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、弁理士の山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

目次

はじめに

一昨年(平成28年)、カラオケ歌唱動画をYouTubeに投稿した男性がカラオケメーカーから訴えられ、著作権法違反を理由に敗訴するという事件がありました。

今日はSNSでアウトの動画とセーフの動画の判断基準についてまとめてみました。

カラオケ歌唱動画をYouTubeに投稿した男性が著作権法違反で敗訴。SNS上の「歌ってみた」「弾いてみた」「踊ってみた」アウトとセーフの判断基準

(1)カラオケ歌唱動画投稿事件について

最初に、カラオケ歌唱動画投稿事件(平成28年(ワ)第34083号:著作隣接権侵害差止等請求事件(*1))について復習しておきましょう。

この事件は、第一興商のカラオケ音源(DAM音源)を用いて、Little Glee Monsterの「私らしく生きてみたい」をカラオケ歌唱し、その様子を撮影した動画データをYouTubeに投稿した男性が、第一興商から訴えられた事件です。

東京地裁は、この男性の行為は第一興商がDAM音源について保有する著作隣接権を侵害するものであると認め、その動画をYouTubeのサイトから削除するだけでなく、男性の保有するハードディスク等からも削除するよう命ずる厳しい判決を出しました。

実は、判決時には、この男性はYouTubeから問題の動画を削除していました。
しかし、この男性が動画の元データを持っていると、またYouTubeに動画を投稿する可能性がありますよね。
だから、元データについても削除するよう命じたわけです。

今回、この男性の行為は、第一興商の持っている送信可能化権の侵害に当たると判断されました。

第一興商は楽曲の著作者(作曲者)から許諾を受けてカラオケ音源(=レコード)を作っています。
このため、第一興商はこの楽曲の著作者ではないものの、著作権法に言う「レコード製作者」に当たるのです。

レコード製作者には著作権ではなく、著作隣接権という権利が認められています。
その著作隣接権の中にはいくつかの権利があり、その一つの権利として送信可能化権が認められているのです(著作権法第96条の2)。

(送信可能化権)

レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有する。

「送信可能化」とは、レコードの内容をいつでも送信できる状態にするという意味です。

YouTubeの動画はボタンをクリックすれば、いつでも再生(視聴者に送信)できる状態になっていますよね。あれこそが「送信可能化」の状態です。

そして、「レコード製作者は送信可能化権を専有(=独占)する」とあるので、レコードを送信可能な状態にすることができるのは、レコード製作者か、その許諾を受けた人だけです。

それにも拘らず、訴えられた男性は、第一興商に無断で、自分の歌とともに録音された第一興商のカラオケ音源をYouTubeに投稿し、いつでも送信可能な状態にしてしまった。

だから、第一興商の持っている「送信可能化権」の侵害に当たると判断されたわけです。

(2)SNS上の「歌ってみた」「弾いてみた」「踊ってみた」アウトとセーフの判断基準

こんな判決が出てしまったので、YouTubeの「歌ってみた」「弾いてみた」「踊ってみた」のように、SNSに投稿する動画はどこまで許されるの?と気になる人もいるでしょう。

SNSでアウトの動画とセーフの動画を判断するため基準をいくつか挙げてみます。

① レコード製作者の作った音源・映像を使っているか

既に説明したように、レコード製作者(レコード会社、カラオケ会社等)の作った音源や映像を流しながら歌唱している様子を撮影した動画はアウトです。

その動画をSNSに投稿すれば、レコード製作者の持っている送信可能化権の侵害となります。

その動画にはレコード製作者の作った音源や映像も一緒に録音・録画されていますよね?
その動画をSNSに投稿すれば、レコード製作者の作った音源や映像を送信可能化したことになるのです。

個人的な目的で撮った動画であろうが、1コーラスだけであろうが、BGMとして流していようが関係ありません。
レコード製作者の作った音源や映像をレコード製作者に無断で録音・録画し、それをSNSに投稿するのはレコード製作者の送信可能化権を侵害する行為であると心得ましょう。

② 著作権のある楽曲を歌唱・演奏しているか

レコード製作者の作った音源・映像を使っていなくても、著作権のある楽曲を歌唱・演奏している様子を撮影した動画はアウトです。

その動画をSNSに投稿すれば、著作権者の持っている公衆送信権の侵害となります。

著作権の中にもいくつかの権利があり、その一つの権利として公衆送信権という権利があります(著作権法 第23条第1項)。

(公衆送信権等)

著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。

レコード製作者だけではなく、楽曲の著作権者も他人が自分の著作物を送信可能化する行為を禁止する権利を持っているということです。

レコード製作者の作った音源や映像を使わず、アカペラで歌唱したり、弾き語りをした場合は、レコード製作者の持つ著作隣接権ではなく、著作権者が持つ著作権が問題になるということですね。

但し、レコード製作者の作った音源・映像を使わずに、かつ、既に著作権が切れている楽曲を歌唱・演奏している様子を撮影した動画はセーフです。

例えば、クラシック音楽やスタンダードナンバーのように、著作者の死後50年を経過し、既に著作権が切れている楽曲については、歌唱・演奏動画をSNSに投稿しても著作権(公衆送信権)の問題は生じません。

③ 著作権者やレコード製作者の許諾を受けているか

そんなことを言われたら、最近のヒット曲の「歌ってみた」「弾いてみた」「踊ってみた」を投稿することなんてできないじゃないか!と思った方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、最近のヒット曲の歌唱動画などを適法に投稿する方法もあるんです。

a)レコード製作者の作った音源・映像を使った動画や、b)著作権のある楽曲を歌唱・演奏している動画であっても、著作権者やレコード製作者の許諾を受けている動画はセーフなのです。

著作権者やレコード製作者に直接、許諾を求めるのは敷居が高いように思えるかもしれません。

しかし、一部のSNSは著作権者(またはその管理者)と楽曲の利用について包括的な許諾契約を結んでいます。
これらのSNSを使えば、レコード製作者の送信可能化権や著作権者の公衆送信権を気にすることなく、動画を投稿することができるケースもあるわけです。

例えば、YouTubeやニコニコ動画などの一部のSNSは著作権管理団体である日本音楽著作権協会(JASRAC)と楽曲の包括的な利用許諾契約を結んでいます(*2)。

従って、

● レコード製作者の作った音源・映像を使わず、
● 著作権管理団体が管理する著作物(楽曲)を自ら歌唱・演奏し、
● その様子を録音した音声、或いは録画した動画を、
● その著作権管理団体と利用許諾契約を結んでいるSNSに投稿する

場合には、その動画はセーフということになります。

また、レコード製作者(例えば、カラオケ会社)が、カラオケの歌唱動画を投稿することができるSNSを運営しているケースもあります。

例えば、第一興商は「DAM★とも」(*3)というSNSを運営しています。

また、JOYSOUNDを運営するエクシングも「うたスキ動画」(*4)というSNSを運営しています。

これらのSNSを使えば、レコード制作者が作成したカラオケ音源・映像を流しながら歌唱している様子を撮影し、その動画を投稿してもセーフです。

ここで、注意しなければいけない点をいくつか挙げておきます。

まず、著作権管理団体と楽曲の利用許諾契約を結んでいないSNSもある点です。

代表的なものでは、Facebook、Twitter、Instagram等は、現時点でJASRACと利用許諾契約を結んでいません。例えば、Facebookに歌唱動画を投稿する行為は著作権の侵害になってしまうおそれがあるので注意が必要です。

また、著作権管理団体との利用許諾契約は、その著作権管理団体が管理している楽曲に限り有効だという点です。

全ての楽曲をJASRACが管理しているわけではありません。
たとえ、JASRACとYouTubeが楽曲の利用許諾契約を結んでいても、JASRACが管理していない楽曲については対象外です。
他の著作権管理団体(例えば、NexTone等)の管理楽曲や、その著作権管理団体とSNSとの利用許諾契約の内容も確認した方がよいでしょう。

なお、JASRACのデータベースを使えば、JASRACが著作権を管理している楽曲を調べることができます(*5)。

まとめ

SNSでアウトの動画とセーフの動画の判断基準、いかがでしたか?

「歌ってみた」「弾いてみた」の動画については、YouTubeやニコニコ動画などのJASRACと楽曲の利用許諾契約を結んでいるSNSに投稿するのが無難ですね。

「踊ってみた」の動画については、レコード製作者の音源を使って踊ることが多いので動画投稿はちょっと厳しいと思います。
自作の音源を用意しないと著作権侵害になってしまいますからね。
YouTubeでも音声トラックを強制的に削除された、無音の「踊ってみた」動画をよく見かけます…。

著作権や著作隣接権を正しく理解した上で、SNSでの動画シェアを楽しんでくださいね!

参考サイト

(*1)平成28年(ワ)第34083号著作隣接権侵害差止等請求事件 判決文|裁判所ウェブサイト

(*2)利用許諾契約を締結しているUGCサービスリストの公表について|日本音楽著作権協会(JASRAC)

(*3)DAM★とも|club DAM.com

(*4)うたスキ動画|JOYSOUND

(*5)作品データベース検索システム|日本音楽著作権協会(JASRAC)

山田 龍也
この記事を書いた人
弁理士/ネーミングプロデューサー/テキスト職人。中小製造業によくある「良い商品なのに売れない」のお悩みをローテク製品の特許取得、知的財産(特許・商標)を活用したブランドづくり、商品名のネーミングで解決している。

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