自分で意匠登録の出願をすることのメリット・デメリット

目次

はじめに

意匠は、例えば自動車の形状、カメラの形状といった、物の具体的な形状に関するデザインです。

意匠の対象は物の具体的な形状を対象なので、図面や写真に意匠を現して出願をすることができます。この点、抽象的な技術思想である発明を文章で説明して出願をする必要がある特許出願と比べると、比較的簡単に出願書類を作成することができそうに思えます。実際、意匠の創作者から自分で意匠登録の出願をしたいと相談されるケースもよくあります。

今日は、意匠の創作者が自分で意匠登録の出願をすることのメリット・デメリットについて考えてみたいと思います。

弁理士じゃなくても出願をすることはできるんですか?

そもそも、「出願って弁理士じゃない人でもできるの?」という点に疑問を持つ人がいるかもしれませんね。

特に弁理士でなければ意匠登録の出願をすることができないわけではありません。意匠の創作者が自分で意匠登録の出願をすることは可能です(俗に言う本人出願)。必ずしも代理人を立てて出願する必要はないんです。

自分で意匠登録の出願をした場合のメリット

弁理士費用が浮きます。弁理士費用は高いと言われてますからね(苦笑)。自分で出願をすれば、その高い弁理士費用をカットすることができます。少ない費用で出願をすることができるというわけですね。本人出願をしたい理由のほとんどはこれでしょう。

自分で意匠登録の出願をした場合のデメリット

一方、デメリットの方はどうかというと、

● 本来、意匠登録されてもよいレベルの意匠が登録されない。
● 特許庁に出願を拒絶されてしまうと、未経験者ではほぼ対応できない。
● 出願を拒絶されてから特許事務所に駆け込んだとしても、未経験者が作った出願書類を補正してリカバリーすることは非常に難しい。
● 仮に意匠登録を受けられたとしても、意匠権の範囲が狭く、自分が創作した意匠を十分にカバーすることができない。
● 以後の出願戦略に悪影響を及ぼす。

などのデメリットが考えられます。結構、デメリットが多いんですよ。

具体的な事例(Aさんのケース)

わかりやすくするために事例を挙げて説明します。

Aさんは自分で創作した意匠について、自分で出願書類を作成し、出願手続きを行いました。物品は身近な生活用品です。その物品をカメラで撮影して、写真を出願書類に添付しました。写真はカラー写真で、カラフルな物品の全体形状を写したものを選びました。写真には特に加工を施しませんでした。

出願から何ヶ月か後に、特許庁から審査の結果が通知されました。意匠登録をするという通知でした。その後、Aさんは登録料を納付することにより、意匠権を取得することができました。

一見、何も問題がないように見えます。

しかし、「出願をすることができた」、「意匠登録を受けることができた」というだけではデメリットがないとは言い切れないのです。

もしもAさんが弁理士に出願を依頼していたら

もし弁理士がAさんから出願の依頼を受けたとしたら、以下のように進めていたと思います。

(1)部分意匠制度を利用して出願する

Aさんは「物品の全体形状」を写した写真を添付して出願しています。このような方法で出願をすると、物品全体のデザインについて意匠権を請求したことになります(物品全体の意匠=全体意匠)。

物品の中には、独創的で特徴的な創作部分と、デザイン的には重要度が低い創作部分の双方が含まれています。全体意匠の意匠権は、特徴的な創作部分だけでなく、重要度が低い創作部分も含まれた形の意匠権となっている、ということです。

この場合、物品全体の形状が似ていないと意匠権の侵害と主張することができません。例えば、特徴的な創作部分だけをパクった(真似した)類似品・模倣品について意匠権の侵害を主張することができないケースが出てきます。

弁理士であれば、部分意匠制度を利用したでしょうね。部分意匠の意匠権であれば、独創的で特徴的な部分を取り込んだ意匠については、意匠全体として似ていなくても意匠権の侵害を主張することができます。

(2)写真を加工する、或いは写真ではなく図面で出願する

Aさんは写真を添付して出願しています。しかもカラー写真です。

この場合、写真に写っているのは物品そのものです。物品の色、素材の質感、物品の表面に表れた線…。たとえデザインとは無関係であっても、写真に写っているものは全て意匠権の範囲を解釈する際の要素となります。写真で書類を作成すれば手間がかからず楽なのですが、意匠が限定的に解釈され、意匠権の範囲が狭まるおそれがあるのです。

弁理士であれば、画像加工で不要な線を消したり、色を抜いてモノクロにしたり、という処理をすることを考えたはずです。図面で出願する弁理士もいたかもしれませんね。図面であれば不都合なものは最初から描かなければよいですし、特徴部分が際立つようにデフォルメして作図することもできます。

(3)出願戦略についても考えてくれる

Aさんは意匠に加えて特許も取りたいという希望があったようです。

しかし、結果的にAさんは特許の出願をすることができませんでした。特許を出願する前に意匠が登録されてその内容が公開されてしまったからです。

特許出願の内容は出願してから1年6月は非公開の状態に保たれます。一方、意匠は登録されるとその内容が意匠公報で公開されます。今は審査が早いので1年も経たないうちに意匠が登録されて公開されてしまうこともあります。公開された意匠は新しさを失ってしまうため、その内容について技術的な観点から特許を取ろうとしても、発明が新しくないという理由で特許を取ることができない場合があります。

弁理士であれば特許の出願時期を早める、或いは特許を先に出すなど、出願戦略の面でのアドバイスもしてくれたはずです。

まとめ

要は、自分が出した出願書類がどのように扱われるか、その出願書類によって意匠権の範囲がどう解釈されるか、全くわからない人が出願書類を作ってしまって大丈夫ですか?ということです。

意匠は登録されてから20年間の長期に渡って保護される財産です。メリット・デメリットを十分に把握した上で、自分で意匠登録の出願をするかどうかを決めることが大事です。

弁理士料金は高いと言われます。しかし、本来、登録されるべき意匠が拒絶されてしまったり、自分が創作した意匠に対して狭い範囲の意匠権しか取れなかったりしたのでは、元も子もありません。

「損して得取れ」という言葉もあります。「小利を貪り大利失う」ということのないようお気をつけくださいね!

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