下町ロケットから学ぶ特許戦略のツボ|特許を出願する時に注意すべき3つのポイント

中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、弁理士の山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

漸くコラムが100本目! テーマには「下町ロケット」を選びました。

ライバルの大企業から特許権侵害だと訴えられ、窮地に陥った中小企業の社長・佃航平が、藁をもすがる思いで、やりて知財弁護士・神谷と初面談をするシーン。

このシーンは「特許」というものを一発で言い表した名シーンです。

今日は、ドラマ・下町ロケットのこのシーンから特許戦略のツボを学んでみましょう!

目次

下町ロケットから学ぶ特許戦略のツボ|特許を出願する時に注意すべき3つのポイント

(1)ドラマのシーンをプレイバック

① ドラマのあらすじ

佃製作所の社長・佃は、小型エンジンの分野で鍔迫り合いをしている大企業のナカシマ工業から、自社の主力製品「ステラ」がナカシマの特許権を侵害していると訴えられて窮地に陥る。

佃は技術部門のリーダー・山崎を連れて、やりて知財弁護士の神谷に相談に行く。
佃から見れば、ナカシマ工業の特許発明は佃製作所の特許発明を模倣したとしか思えないもの。
しかし、技術にも精通する神谷から、この訴訟の旗色が悪いことを示唆されてしまう。

② 知財弁護士・神谷の言葉

納得がいかない佃に対して、神谷が質問を投げかけるところからこのシーンは始まります。

神谷「なんでこんなことになったか、わかりますか」

佃 「なんでって…」

神谷「失礼ですが、それは、佃さんが以前に取得した特許が良くなかったからです」

山崎「それはウチの技術がイマイチだったってことですか、先生!」

激昂する山崎と佃に対して、神谷はコーヒーが入ったプラスチックカップを手にとって説明を始めます。

以下、全て神谷の言葉です。

「私がコップというものを発明したとします」

「中が空洞になっている円柱状の物体で、底があって、プラスチックでできている と書いて特許を出願したとします。さて、それでいいでしょうか?」

「その特許が認められた後、たとえばプラスチックじゃなくて、ガラスでできたものを作った人が出てきたらどうでしょう。」

「あるいは円柱ではなく、角のあるものを作った人が出てきたらどうですか。」

「この二つは特許違反になるでしょうか」

このシーンの神谷の言葉に「特許」の特徴が端的に現れています。

逆に言えば、このシーンを注意深く読み解くことで、「特許」について理解することができ、一見難しい「特許」が身近なものとなるのです。

(2)神谷の言葉から読み解く特許のツボ

このシーンの神谷の言葉から特許のツボとなるポイントを拾ってみましょう。

ポイントは以下の3つです。

① 製品と特許は別物

神谷は佃製作所の研究開発能力や技術の素晴らしさを認めています。

その上で「取得した特許が良くなかった」と言っています。

これは製品と特許は別物であることを指摘したものです。
特許は技術のアイデアに対して与えられるもので、製品自体に対して与えられるものではないのです。

特許を取ると、その対象となった製品(佃製作所の場合は「ステラ」)の全ての技術が特許権で保護されているように錯覚してしまいます。
しかし、製品のすべてが特許権で保護されていることは稀で、製品に含まれている技術の一部が特許の対象となっていることが殆どなのです。
仮に、製品の全ての技術をカバーする出願書類を作っていたとしても、審査の過程で特許性がないと指摘されて、技術の範囲を狭く、具体的に限定しなければ特許を取れないケースもありますからね。

その製品が素晴らしくても、その製品の技術の全てが特許権でカバーされているわけではない、という点には注意が必要です。

② 特許を申請したものしか特許権で保護されない

神谷はコップの発明の例で、初心者が陥りやすい特許の盲点をズバリと指摘しています。

特許出願の手続きでは特許を取りたい発明を文章で記載した書類を提出します。
特許庁の審査官はその文章を見て特許にするかどうかを決めるわけです。

だから特許を受けたい発明については、出願書類において「特許を請求する発明であること」を明らかにしておかなければなりません。
特許を請求していない発明は、そもそも審査の対象にならないし、当然、特許権の範囲にも含まれないのです。

神谷が例に出したコップの発明は、プラスチック製のもの、形が円柱状のもの、という限定されたアイデアについてしか特許を請求していない、ということになります。

● プラスチックだけではなく他の素材でできたもの
● 円柱だけではなく他の形のもの

そういうアイデアについても特許を請求した方がよいかどうかを検討しなければいけないのです。

③ 特許に穴があれば、必ずそこを突かれる

神谷はコップの発明について特許の穴があることを指摘しています。

その上で、穴がある特許を取ってしまったら、将来的にガラスでできたコップや角のあるコップを作る人、即ち、特許の穴を突く人が現れることを示唆して警鐘を鳴らしています。

自分が「この発明を特許にして欲しい」と請求することは、裏を返せば「それ以外の発明については特許は要らない」と言っていることになるのです。

特許の穴はライバル会社に必ず突かれます。
その技術が大事な技術であればあるほど、特許に穴はないか、何とかその特許を回避して似たようなものができないか、目を皿のようにして特許の書類を見ているはずです。

特許を出願する場合には、そのような可能性・危険性を十分に理解した上で、特許を請求する発明を精査する必要があります。

(3)特許を出願する時に注意すべき3つのポイント

神谷の言葉から特許を出願する時に注意すべき点を整理してみます。

ポイントは以下の3つです。

① 自分の製品から一旦離れる(技術を客観的に見る)

自分が開発し売り出そうとしている製品や現在の状況に縛られてしまって、その土俵でしか物事を考えられなくなっている方が多いです。

「この素材は高いから使えない」
「この素材は法律で規制されている」
「簡単な形状にしないと製造コストを下げられない」

本当にそうですか?

特許は20年間、技術を保護してくれるものです。
長いスパンで見れば、素材の値段が下がる、法律が改正される、新たな加工技術が開発される、ということは十分あり得ます。

そして、値段や法律の条件は技術のアイデアとは無関係です。
本来、切り離して考えるべきものなのです。

まず、技術を客観的に見ましょう。
そして、今、自分がやろうとしていることが技術的に見て正しいのかどうか、今一度、確認してみることをお勧めします。

② 同じ効果を得られるアイデアが他にもないか考える

発明は技術的なアイデアであり、一定の技術的効果を奏するものです。
今までの技術では得られなかったような新たな効果を奏するアイデアであれば、特許を取れる可能性があります。

自分が開発した製品を「技術的効果」という側面から見直してみましょう。

あなたの製品の特徴的な効果、今までの製品では得られなかった効果は何ですか?
それと同じ効果を得る方法は今考えている製品以外にはありませんか?

コップの発明の例で言えば、素材をプラスチックにした意味を今一度、考えてみるということです。

プラスチックでなければ、その技術的効果は得られないのか?
他の素材でもその効果を得られるとしたら、どんな素材なら良いのか?

こういう考え方が発明の幅を広げ、特許の穴をなくすことにも繋がるのです。

③ ライバル会社の立場に立って、どんな特許を請求すればよいか考える

「新しい製品ができたから特許を取りたい」
「この製品が真似されないように特許を取っておきたい」

そう言ってご相談に来られる方が多いです。
でも、これは少し頭を冷やして考えた方がよいのではないでしょうか。

仮にその製品について丸々特許を取れたら、それで問題ないですか?
その製品の売れ行きがよく、ヒット商品となったときに、ライバル会社はすんなり諦めてくれるでしょうか?

そうではないでしょうねぇ。

前の項でも説明したように、ライバル会社は、

● 特許に穴はないか
● 何とかその特許を回避して似たようなものができないか

目を皿のようにして、あなたの会社の特許書類を見回すでしょう。

自分がライバル会社の立場だったら、どこを突くのか考えてみましょう。
そして穴を埋めるにはどうしたらいいか考えましょう。
それを丹念に繰り返すことで特許の穴は減っていきます。

そうすれば、独りよがりではない、他人から見ても隙きが少ない、良い特許を作れるようになるはずです。

おわりに

いかがでしたでしょうか?
コラム100本目ということで気合いが入ったのか、4000文字の長文になってしまいました(苦笑)

でも、このコラムはこれから特許を出していこうという中小企業の方には必ず参考になる記事です。
何か特許で煮詰まることがあったら、この記事を見直して欲しいです。

そして、自分ひとりではどうにもならないと思ったときには、ぜひうちの事務所に相談に来てくださいね。

おまけ

最近、正月に録画しておいた、下町ロケットのディレクターズカットを視ています。
歳のせいか涙腺が弱くなったようで、シーンごとにウルウルしてしまいます(恥)

特許や物づくりを真正面から捉えた数少ないドラマ作品ですからね。
主役の阿部ちゃんも同い年だし!

思い入れが強い作品なんです。

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2018年10月からスタートした「下町ロケット」新シリーズ。
この新シリーズについて記事の執筆を開始しました。
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山田 龍也
この記事を書いた人
弁理士/ネーミングプロデューサー/テキスト職人。中小製造業によくある「良い商品なのに売れない」のお悩みをローテク製品の特許取得、知的財産(特許・商標)を活用したブランドづくり、商品名のネーミングで解決している。

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