平成29年度弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)問題及び論点が発表されました

中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)の代表弁理士・山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

7/2(日)に、弁理士試験・最大の山場である二次試験(論文試験)が行われました。
今年はどんな問題が出たんでしょうか?
怖いもの見たさで覗いてみました!

目次

弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)

弁理士試験は一次試験から三次試験まで3つのステップがあります。
一次は短答試験(マークシート)、二次は論文試験、三次は口述試験です。
二次には必須科目と選択科目があって、今回行われたのは必須科目の試験です。

論文必須科目は、①特許・実用新案、②意匠、③商標の3科目。
それぞれ、120分、90分、90分、合計5時間に渡って論文を書き続ける長丁場です。
終わると、消耗しきってヘロヘロになります(笑)

昨日、今年の問題文が公表されたので、サラッとレビューしてみます!

特許・実用新案法(120分。配点:200点)

特許・実用新案は、通常、大問が2問出ます。
大問1問あたりの持ち時間は60分ということです。

では内容を見ていきましょう。

【問題Ⅰ】(配点:100点)

日本に居住する甲さんが日本に特許出願をし、それを基礎にして外国にも出願をしようとしているというシチュエーションでの事例問題です。

この問題のポイントは、日本国特許法が定める「外国語書面出願」と、特許協力条約(PCT)を利用した「国際出願」です。
設問1では国際出願について、設問2では外国語書面出願について聞いています。

聞かれている項目をまとめると、こんな感じですかねー?

設問1
(1)国際出願日の認定要件
(2)国際出願の国際段階における補正
(3)国際出願の国内移行手続き(補正内容の移行も含む)

設問2
(1)外国語書面出願制度の概要・趣旨
(2)誤訳・新規事項追加の補正があった場合の拒絶理由

よくよく見れば、どれも条文に書いてある項目です。
仮に覚えていなくても、貸与される条文集をひたすら捲って項目を探せば何とかなりそうです。

ただ、書くべき項目が結構多いですよね。
国際出願の国内移行手続きを聞く問題は過去問にもありますが、この問題では国際段階の補正まで言及しないといけません。
要領よくまとめていかないと時間切れになるタイプの問題です…。

あと、いやらしいのが外国語書面出願制度の趣旨。
趣旨は条文集に書いてありませんから、覚えていないと書けません。
実は問題文の中にヒントが隠されているんですが、それに気がつくかどうか。

試験会場で一番頼りになるのは条文集。
二番目は問題文。
一番頼りにならないのは自分の頭(あいまいな記憶)です(笑)

【問題Ⅱ】(配点:100点)

ガス機器メーカーの甲さんが安全装置に関する発明をして特許権を取ったというシチュエーションでの事例問題です。

設問(1): 怪しい行為をしている乙さんがこの特許権を侵害しているかどうか
設問(2): この特許を使いたい丙さんはどうすればいいか
設問(3): この特許を潰したい戊さんはどうすればいいか

について検討する問題です。

挙げるべき項目はこんな感じ?

設問(1)
特許発明の実施、特許権の効力、特許権の効力が及ばない範囲(試験・研究)

設問(2)
裁定による通常実施権の設定(不実施、利用発明、公共の利益)

設問(3)
冒認出願に由来する無効理由の請求人適格、特許を受ける権利の移転

設問(1)は定番ですね。
特許権侵害の成立要件と否認・抗弁事由について説明すればよいはずです。

設問(2)は裁定通常実施権ですか…。
過去問でこれは出てないんじゃないですか。かなりレアな問題です。
ただ、ひねりはありませんよね?
びっくりすることなく、条文ベースで淡々と書いた人が勝ち!

設問(3)は特許を受ける権利の移転に気がつくかどうか。
戊さんは甲さんの特許を無効にしたいので、特許権の移転請求ではないですよね。

うーん。問題Ⅰ、Ⅱを合わせて2時間ですか。
項目が多いから、時間的に結構、厳しいですね!

問題Ⅰの国際出願の補正や外国語書面出願の趣旨、問題Ⅱの裁定通常実施権などは頻出問題とは言えないので苦手な人も多そうです。
この辺りの設問をスムーズに通過しないと、思考力を要する最後の設問(3)を考える時間がなくなってしまいます。

意匠(90分。配点:100点)

意匠も大問が2問です。

でも、特許・実用新案より時間が短いので傾斜配点になっています。

問題Ⅰ(配点:40点)

いわゆる趣旨問題です。
意匠法上の物品と画像の保護について聞かれています。
覚えていないと書けない問題ですね。

私が書くならこんな感じ?

設問(1)
意匠法上の物品(定形性、視覚性、取引性、有体動産)

設問(2)
画像の保護の範囲(物品、操作の用に供される画像、機能を発揮できる状態にするための画像、物品に表示される画像、物品との一体不可分性)

設問(1)は基本書の記載に即してオーソドックスに行けば良さそうです。

でも設問(2)が、ちと難しい…。
出題者は何を答えて欲しいんだろう?

こういうとき、ヤマダなら条文に戻ります。2条2項ですね。
条文を分説して、物品と一体不可分な画像に限って登録が認められている点に触れるくらいでお茶を濁しておきましょうか(苦笑)

趣旨問題ではその法域らしさが出るように書きたいところです。
「物品」は実用新案法にも出てきます。
これとの違いが分かるように書かないと、理解の程度を疑われそうです。
取引性や有体動産には触れておきたいですね。

問題Ⅱ(配点:60点)

意匠ハについて意匠権を持っている乙さんが、似た意匠イ、ロを実施している甲さんに意匠権侵害だと警告。
甲さんは自分の意匠イを出願していたけれど、結果的には意匠権を取れなかった。
さぁ、甲さんどうする?という事例問題。

設問(2)が難しいなぁ。

こんな感じでしょうか?

(1)甲が侵害だと言われる理由
登録意匠ハに類似する意匠イ、ロの実施=形式侵害

(2)侵害警告への対応
形式侵害 ⇒抗弁事由を検討。
① 無効審判請求?
○(乙のハは新規性なし<公知意匠イに類似>)
② 先使用権
×(「実施の準備」の条件を満たさない)
③ 先出願による通常実施権
○(イは善意創作、設定登録の際現に類似意匠イ、ロの実施準備、先出願、意匠イ実施、意匠イが新規性不備で拒絶確定)

設問(1)は形式侵害で無問題ですよね。

問題は設問(2)です。

① 無効審判は要件充足ですね。
問題文に「権利行使の制限には言及しなくてよい」という、なお書きがあり、無効理由に触れたらダメなのかなとも思ったのですが、「無効理由を考慮しなくてよい」とは書いてありませんね。

それに、無効審判を書かないと、乙さんの出願前に、甲さんがイを展示会に出品しているという条件を答案に反映させられません。
問題文に示された条件は全てに意味があるはずですから、無効審判は入れておきました。

② 先使用権は×としました。甲はイの受注活動しかしていないので、先使用権の「即時実施の意図、客観的に認識できる態様・程度において表明」を満たさないんじゃないですか?

③ 先出願による通常実施権は要件充足でいいですよね。

意匠もボリュームがありますね。
画像保護の書き方が悩ましいし、先出願による通常実施権の事例当てはめは結構時間を取られそうです(受験生時代、この条文は苦手だったんですよ(汗))

各々の記載が薄くなっても仕方がないので、最後まで書ききる、未完成答案を作らないというのがポイントかもしれません。

商標(90分。配点:100点)

商標も大問が2問で傾斜配点です。
でも意匠とは配点の割り振りが違っています。

問題Ⅰ(配点:35点)

これは似たような制度同士の対比問題です。
異議申立てと無効審判の差異点について聞かれています。

趣旨、申立(請求)人適格、申立(請求)時期、申立(請求)理由、審理方式…

挙げようと思えば、違いは色々あります。
でも各々の制度趣旨に直結するような規定を落とさないようにしたいところです。

但し、配点も少ないので、枝葉の違いはサラッと書いて逃げるのもありでしょうね。
枝葉の規定は「その他」でまとめて書く。規定の名称+条文くらいで済ませる。
忘れてはいませんよとアピールしておくに留める。

問題Ⅰは早々に済ませて、本丸の問題Ⅱに進んだ方が良さそうです。

問題Ⅱ(配点:65点)

事例問題です。

(1)ワインの原産地表示「YAMANASHI」を出願したときに拒絶されるかどうか
(2)商標「Grape」を出願した時に指定商品との関係でどんな拒絶理由が生じるか
(3)「Grape」について商標権を取れなかった甲が、類似商標「Glape」の商標権者から侵害訴訟を提起されたときの抗弁事由
(4)除斥期間を経過後の無効理由について、権利行使制限の抗弁をできるか

などが問われています。

ヤマダはこんな感じで構成しました。

(1)
4条1項17号の趣旨:TRIPs協定の批准によって国内の地理的表示が不利に取り扱われないようにするため

拒絶理由にはならない(長官指定が出願より後。優先権+両時判断)。

(2)
① ぶどうに「Grape」=普通名称(3条1項1号)
② グレープジュースに「Grape」=原材料(3条1項3号)
③ いちご酒に「Grape」=品質誤認(4条1項16号)

(3)抗弁事由=商標権の効力制限(普通名称。26条1項2号)

(4)除斥期間経過後に権利行使制限の抗弁を主張することの妥当性。
不当。除斥期間を設けた趣旨(既存の法律状態を保護)に反する。

設問(2)、(3)は定番ですね。

設問(1)は趣旨が出てくるかでしょうね。
TRIPs協定の批准に伴って導入された規定なので、そこを説明できるかどうか。
素直に読めば、拒絶理由にならないのはわかりますね。

難しいのは設問(4)。

正直、最初に読んだ時は題意がよくわからず…。
無効理由が除斥期間を経過した後も、準特104条の3の「無効にされるべきものと認められるとき」に該当するのかどうか、ということなのかな???
主張できないとした方が筋が通りそうです。

商標も問題Ⅰをそこそこで納めないと、問題Ⅱを書ききれないパターンです。

設問(1)の4条1項17号の趣旨が出てくるか、設問(4)を説得力がある理由付けで説明できるか、といった辺りがポイントになりそうです。

まとめ

答案構成程度ですが、久しぶりに論文の問題に取り組んでみました。

試験から離れてもう7年?
すっかり錆びついてますね。
色々と調べてはみたのですが、これで正解どうかわかりません。
今、受けたら不合格ですね。きっと(笑)

問題を解いてみた感想は以下のとおりです。

● 国際条約に絡む問題が多い

特許でPCT、商標でTRIPs絡みの問題が出ました。
最近の受験生は条約が弱い、論文科目に条約を復活させるべき、といった噂はよく聞きます。
今後もこの傾向は続くかもしれません。

● 普段、あまり馴染みのない制度についても出題される

特許で外国語書面出願、裁定通常実施権、商標で4条1項17号が出題されました。
頻出問題でなくても趣旨くらいは押さえておく、条文を探せるようにしておくという対策はした方が良さそうです。

● 思考力を要する問題が出題される

特許法・問題Ⅱの設問(3)、意匠法・問題Ⅰ、Ⅱ、商標法・問題Ⅱの設問(1)、(4)など、すぐには答えが出ない問題が出題されています。
法律の条文から妥当な答えを導き出す法的思考力を養っておく必要がありそうです。

受験生の皆さん、おつかれさまでした!
コンディションを整えて、二次(選択)、三次に臨んでください!

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