落語家の三遊亭円楽さんが亡くなりました。死因は肺がん。まだ72歳。先日、脳梗塞から復帰されたばかりだっただけに残念…。以前、円楽師匠の「話を面白くするコツ」というトークショーを拝見したので、その時の話を。話の上手さに頼らないプロの話芸の真髄を。
放送作家・石田章洋さん。「世界ふしぎ発見」や「TVチャンピオン」の脚本を書かれています。以前、とある勉強会でご一緒させて頂き、知り合いました。で、この石田さんが三遊亭円楽(当時の三遊亭楽太郎)師匠のお弟子さんだったそうで。弟弟子はあの伊集院光さん。
それで、石田さんが「おもしろい伝え方の公式」というご著書を出版される際に、円楽師匠と石田さんのトークショーが実現したわけです。このトークショーのテーマが、本のタイトルに合わせて、「話を面白くするコツ」。大変、興味深いお話が聞けたので、その話を書いてみます。
三遊亭円楽師匠、トークショーに登場!
東京・八重洲ブックセンターで行われたトークショー。そこにゲストとしてさっそうと登場したのが六代目・三遊亭円楽師匠です。あの「瀬古さん似の楽太郎さん」ですよ。
端から、「やっぱり話のプロはさすがだな!」と思わせてくれました。入ってくるや否や、挨拶代わりの笑いをとって観客の気持ちを掴む。含蓄のある話に会場が真剣に耳を傾けていたら、今度は一転、大爆笑させる。まさに名人芸。
そんな円楽師匠と元・弟子の石田さんが「話を面白くするコツ」というテーマで師弟対談を繰り広げてくれました。
石田章洋さんトークショー ゲスト 六代目 三遊亭円楽師匠 司会 三遊亭道楽師匠
(著)石田 章洋|初対面でも話しがはずむ おもしろい伝え方の公式
円楽師匠の「話を面白くする4つのコツ」
今回のテーマの「話を面白くするコツ」。
円楽師匠の話をまとめると、「話を面白くするコツ」は以下の4点です。
- 聞き手を気配る
- 話の中に登場人物として入り込む
- スベるのを恐れず、恥をかく。とにかく話す
- 「書き言葉」ではなく、「話し言葉」で話す
では、1つずつ噛み砕いて説明していきます。
聞き手を気配る
聞き手との関係性をしっかり作ることが笑いにつながる。
これが円楽師匠の笑いを取るための真髄なんでしょう。まず、話し始める前に、しっかりアンテナを立てて周りの空気を読む。そして、相手との関係性を作る。この2つに腐心することで話が面白くなる、ということなんです。
円楽師匠が言うには、
人を笑わせるには、空気(気配)を読むこと、気を配ること、が大事
「おもしろい伝え方の公式」刊行記念講演会(2017.2.11)より
なんですって。その理由は、
「笑い」はコーディネートだから
「おもしろい伝え方の公式」刊行記念講演会(2017.2.11)より
聞き手に対する気配りがないやつの話、自分と何の関係もないやつの話なんて、面白いわけがねーじゃねーか。そんな円楽師匠の声が聞こえてきそうです。
円楽師匠は、落語の本編に入る前のマクラ(導入)の部分で、高座から客席全体を見渡しているそうです。これが聞き手に対する気配り。
客席の一方向を見て、一人のお客さんに向かって話していても、絶えず客席全体に意識を集中させて気配を感じ取っている。そして、あまり話に集中していないお客さんがいると、そっちを向いて話を振り、意識を自分の方に向けさせる。まず、マクラの部分でお客さんとの関係性をしっかり作り、それからおもむろに落語の本編に入っていく、ということをしているそうです。
僕ら素人は、マイクを渡されると、いきなり自分の話をベラベラ喋り始めてしまう。会場がまだ温まっていない、聞き手が自分に対して興味を向けていない。相手も話を聞く準備ができていない。そんな聞き手に対する気配りもできていない状態で話しても、面白がってもらえるわけないよ、ということです。
話の中に登場人物として入り込む
外から見たものを実況的に伝えるのではなく、話の中に登場人物として入り込み、そこで実際に感じたものを伝える。これが話を面白くする2つ目のコツだそうです。
こうすることで、話が単なる事実の伝達にならず、体温を持つ。登場人物の感情にしても、情景描写にしても、現実味のある生き生きとした表現で伝えることができる。そうして初めて、相手も興味を持って耳を傾けるようにを聴いてくれるようになるということでした。
円楽師匠は、
「説明」は面白くない
「おもしろい伝え方の公式」刊行記念講演会(2017.2.11)より
と言っていました。その理由は、
(聞いている方は)状況が見えないし、映像も浮かばないから
「おもしろい伝え方の公式」刊行記念講演会(2017.2.11)より
確かに、これでは感情移入もできないし、共感もできませんよね。話を面白く感じるわけがない。
「説明」は単なる事実の伝達です。NHKのアナウンサーが淡々と伝えるニュースに「面白さ」はないじゃないですか。彼らは報道の客観性を保つのが仕事。だからあれでいいんです。でも、自分の話で人を笑わせたい、楽しませたいと思ったら、事実を「説明」するだけでは不十分。聞き手の感情を動かすことはできないってことですよ。
因みに、この方法だとセリフも飛びにくいそうです。話を覚えて口に出すのではなくて、中の人の気持ちになって話しているからでしょうね。
スベるのを恐れず、恥をかく。とにかく話す
話を面白くしたかったら、とにかく場数を踏むこと。
「うまくなったら話そう」なんて思っていたら、一生話せるようにはならない、ということですよ。
円楽師匠は
とにかく話すこと。スベるのを恐れず、恥をかけ
「おもしろい伝え方の公式」刊行記念講演会(2017.2.11)より
と言っていました。その理由は、
言葉を使うことで表現が磨かれていく
「おもしろい伝え方の公式」刊行記念講演会(2017.2.11)より
からだそうです。これは、ホントにそう。文章でも同じです。書くことで表現のバリエーションが増えていく。たまに書く程度ではうまくならんのですよね。
「書き言葉」ではなく、「話し言葉」で話す
「書き言葉」で、そのまま話さない。目の前にいる相手を意識した表現に変える。これらも話を面白くするために大事なことだそうです。
師匠は、
文字を追ってるから余裕がなくなる。つまらなくなる
「おもしろい伝え方の公式」刊行記念講演会(2017.2.11)より
と、言っていました。用意した台本に書いた「書き言葉」をそのまま読んでしまうということでしょうね。これだと聞き手とのコミュニケーションは成立しない。だから、面白くないんだと。
今回のトークショー。円楽師匠の話の中で特に印象的だったのが、「読み言葉」「書き言葉」「話し言葉」は全部違うよ、というお話。ヤマダなりにまとめてみると、
- 他人の考えを文字で読み取るのが「読み言葉」
- 自分の考えを文字で伝えるのが「書き言葉」
- 自分の考えを声で伝えるのが「話し言葉」
ということです。表にまとめると、こんな感じ。
誰から誰へ | 伝達手段 | |
読み言葉 | 他人から自分へ | 文字(間接的) |
書き言葉 | 自分から他人へ | 文字(間接的) |
話し言葉 | 自分から他人へ | 声(直接的) |
たとえ伝える内容が同じでも、伝達手段によって表現は全く違ってくる。聞き手の反応もきっと変わってくるはずです。
円楽師匠の「話を面白くする4つのコツ」まとめ
円楽師匠直伝の「話を面白くするコツ」は、
- 聞き手を気配る
- 話の中に登場人物として入り込む
- スベるのを恐れず、恥をかく。とにかく話す
- 「書き言葉」ではなく、「話し言葉」で話す
の4つでした。人前で話をするとき、ぜひ思い出してみてください。
円楽師匠の話を聞いた感想
頭がよく、弁が立つ人だなという印象でした。でも、話の上手さに頼っているわけではなくて、聞き手をよく見る、聞き手との関係性をしっかり作るということに注力しているという話が印象的でした。72歳。落語家としてはまだまだ活躍できたと思うんですがね。残念。ご冥福をお祈りします。