アマゾンの「1クリック特許」の内容とその意義|アマゾンの「1クリック特許」失効は楽天にとって朗報となるか?

目次

はじめに

中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、弁理士の山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

この記事は、「特許権・実用新案権で護る(技術)」のカテゴリーに属する記事です。
固有の技術を模倣から護り、技術をブランド化したい中小企業様・個人事業主様に役立つ内容です。

今回は、アマゾンの「1クリック特許」の内容とその意義について解説します。

アマゾンの「1クリック特許」の内容とその意義|アマゾンの「1クリック特許」失効は楽天にとって朗報となるか?

アマゾンの「1クリック特許」が失効(特許権が消滅)したことが報じられました(*1)。

このニュースは競合する楽天にとって朗報となるんでしょうか?
それとも絶対王者・アマゾンの牙城は揺るがないんでしょうか?

アマゾンの「1クリック特許」とは

アマゾンの「1クリック特許(1クリック注文特許)」は電子商取引(e-コマース、オンラインショッピング)に関する特許です。

特許は技術的なアイデアに対して独占権を与える制度です。
従来はビジネスの方法・ビジネスモデルについては「技術ではない」等の理由から、特許として認められない傾向にありました。
このため、アマゾンの「1クリック特許」が成立した際には「ビジネスモデル特許の魁」としてかなり話題になったのです。

「1クリック特許」の内容

「1クリック特許」の内容を簡単に説明しましょう。

通常のオンラインショッピングは、購入しようとする商品を選択し、ショッピングカートに入った商品の内容を確認し、その後、購入者の情報を入力し、決済手続きに進むというプロセスで進んでいきます。

これに対し、アマゾンでは、予め登録された購入者の情報を使って商品の購入手続きを行います。
この方法なら商品購入時に購入者情報をその都度入力する必要がなく、確認作業も要らないので便利です。
画面上のボタンを1回クリックすれば購入手続きを完了させることができるので、その方法に関する特許は「1クリック特許」と呼ばれています。

「1クリック特許」はユーザーの利便性を向上させるだけでなく、アマゾンにとってもメリットがあります。
1クリックで購入手続きが完了するので、カートに商品を入れたけれども結局買わなかった(カゴ落ち)というケースを減らすことができ、商品の購入率が上がるのです。

日本の「1クリック特許」はまだ生きている

実は「1クリック特許」は完全に息絶えたわけではありません。

特許は各国の特許庁が個別に与えています。
今回、特許の失効(特許権の消滅)が伝えられた「1クリック特許」は米国の特許です。
日本では「1クリック特許」がまだ生き残っています。

日本における「1クリック特許」は特許4937434号(*2)です。
この特許は来年(平成30年)の9月14日まで権利が存続します。
日本では、あと1年、特許権が残っているということです。

この特許発明の発明者としては「ジェフリー ピー. ベゾス」(ジェフ ベゾス)も名を連ねています。

そして、特許請求の範囲にはこんな発明が記載されています。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイテムを注文するためのクライアント・システムにおける方法であって、

前記クライアント・システムのクライアント識別子をサーバ・システムから受信することであって、前記クライアント識別子は、前記クライアント・システムから前記サーバ・システムが予め受信した前記ユーザの購入者固有注文情報と対応付けて前記サーバ・システムに予めストアされていること、

前記クライアント・システムで前記クライアント識別子を永続的にストアすること、

アイテムを特定する情報の要求を前記サーバ・システムに送信すること、

前記アイテムを特定する情報と、前記特定されたアイテムの要求を受け付け、ストアしておくための記憶領域を示すショッピングカートの指示部分と、前記特定されたアイテムを注文するのに実行すべきシングル・アクションの指示部分とを、前記サーバ・システムから受信して、ディスプレイに表示すること、

前記シングル・アクションが実行されることに応答して、前記特定されたアイテムの注文要求を、前記ショッピングカートにはストアせずに、前記クライアント識別子とともに前記サーバ・システムに送信することにより、前記サーバ・システムが、前記受信したクライアント識別子により、予めストアされた前記購入者固有注文情報を特定し、前記シングル・アクションの選択のみによって注文を完成させることであって、前記シングル・アクションの実行により、他のアイテムについての注文であって、前記クライアント識別子に関連付けられた1または複数の以前のシングル・アクション注文を、そのアイテムの有用性に基づいて結合し、前記有用性は、短期間または長期間に分類され、前記短期間は、在庫のある注文に相当し、注文要求を受けたときに出荷可能であり、前記長期間は、注文要求を受けたときに出荷可能でない注文に相当すること、および、

前記特定されたアイテムの前記注文要求を、ある時間期間内にキャンセルするのに実行すべき指示部分を前記ディスプレイに表示すること

を備えたことを特徴とする方法。

長い!

特許書類で使う用語や言い回しは独特です。
「何を言ってるのかよく分からん!」という人が殆どだと思います(笑)

できる限り噛み砕いて説明しましょう。
「1クリック」に対応する部分は、一番長い第6パラグラフに記載された以下の部分です。

前記サーバ・システムが、前記受信したクライアント識別子により、予めストアされた前記購入者固有注文情報を特定し、前記シングル・アクションの選択のみによって注文を完成させる

具体例に当てはめながら説明すると、「アマゾンの商品購入システムが、アマゾンのアカウントIDを頼りに、予め登録されている購入者の情報を探し出して、1回のマウスクリックだけで注文手続きを完結させる」です。
こう言えば、何となくイメージできるのではないでしょうか。

特許権侵害となるのは、請求項1に記載された発明の全部の条件を満たしたときです。
だから、この「1クリック」に対応する部分だけを真似したからと言って特許権侵害になるわけではありません。

アマゾンの「1クリック特許」失効は楽天に朗報となるのか?

それでは、アマゾンの「1クリック特許」失効は楽天にとって朗報となるのでしょうか?

私は、残念ながらそうはならないと考えています。

アマゾンの「1クリック特許」は米国では既に特許権が消滅し、日本でも1年後には特許権が消滅します。
即ち、今後は楽天などの同業他社も「1クリック特許」の技術をアマゾンの許諾がなくても無償で使えるようになるということです。

このことは、アマゾンにとってかなりの痛手、楽天にとって朗報となるように思えます。
今まで、アマゾンは「1クリック特許」の技術でユーザーに利便性を提供し、電子商取引の分野で市場優位性を保ってたわけですし、また、アップルをはじめ、「1クリック特許」を使いたいという企業にこの技術を提供し、莫大なライセンス収入も得てきたわけですから。

しかし、よくよく考えてみれば、「1クリック特許」は20年以上も前に作られた技術です。
特に電子商取引のような日進月歩の技術分野では、かなり古典的な技術と言っていいでしょう。

そして、アマゾンはこの業界ではぶっちぎりで先頭を走っていて、新しい技術の開発に余念がありません。
例えば、ドローンを使った配送システム等についても相当数の特許を出願しています。
アマゾンは既に先を見据えて、「1クリック特許」に代わる将来の飯の種を着々と作り始めているわけです。
一方、楽天がアマゾンに対抗できるだけの技術開発を行っているという情報は殆ど流れてきません。

こういう状況に鑑みれば、たとえ「1クリック特許」の権利が消滅したとしても、楽天がアマゾンの牙城を崩すには至らないと考えるのが自然ではないでしょうか?
わたしは当面はアマゾンの一人勝ちが続くと予想しています。

残念ながら「1クリック特許」の失効は楽天にとっての朗報にはならないようです。

まとめ

最後に、アマゾンの「1クリック特許」の意義を考えてみましょう。

私は、「1クリック特許」により電子商取引の分野で市場独占状態を作り出し、その市場独占状態を活かして新しい技術(例えば、ドローン配送の技術など)の開発に注力できる資金や時間を得られたことではないかと考えています。

特許を取ることの意義を他社に技術を真似させないことだと思っている方が殆どです。
しかし、技術は必ず陳腐化します。
一つの特許の上にあぐらをかいていたら、企業の継続的な発展は望めないのです。

参考サイト

(*1)一時代の終焉:Amazon「1-Click 注文」の特許が失効|DIGIDAY

(*2)特許4937434号公報|特許情報プラットフォーム

山田 龍也
この記事を書いた人
弁理士/ネーミングプロデューサー/テキスト職人。中小製造業によくある「良い商品なのに売れない」のお悩みをローテク製品の特許取得、知的財産(特許・商標)を活用したブランドづくり、商品名のネーミングで解決している。

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