はじめに
先日、「モーニング娘。20周年記念スペシャル」というTV番組が放映されていました。
彼女たちも、もうデビュー20周年なんですねぇ…。
今日はそんな彼女たちに敬意を表して、中小製造業の方々に学んで欲しい、モー娘のプロデューサー・つんく流「商品の売り方・作り方」を紹介します!
つんく流「商品の売り方・作り方」
モーニング娘。は、言わずと知れた、日本を代表する女性アイドルグループです(*1)。
1997年9月14日に結成されて以来、今日に至るまで日本のアイドルシーンを彩ってきました。
そのグループが遂に結成20周年を迎えたわけです。
しかし、モー娘。の20年は決して順風満帆ではありませんでした。
2000-2001年に黄金期を迎えた後、徐々にCDの売上は低下し、TVでの露出も減り、長い長い冬の時代を経験しています。
それでも、モー娘。が20年間生き残ってきたのはプロデューサーを務めるつんくが、その時々で、モー娘。という商品の売り方・作り方を変革し、数々のピンチを乗り切ってきたからです。
彼がどんな手法で20年間、モー娘。を売り続けてきたのか検証してみましょう!
(1)単品でダメならセットで売る
モーニング娘。は、とあるヴォーカル・オーディションに落選したメンバー5人で結成されたグループです。
プロデューサーのつんくは、オーディション合格者と比べて実力や将来性の面で劣ると判断されたメンバーをセット売りするという手法で世に出しました。
単品での実力や魅力に乏しくても、5人をまとめてグループとすることで全体的な価値を引き上げようという作戦です。
「モーニング娘。」というグループ名も、喫茶店のモーニングセットのようなお得感をイメージして命名されたものです。
また、つんくは彼女たちにメジャーデビューの条件としてインディーズ盤のCD5万枚を手売りさせるというプロモーションを仕掛けています。
オーディション落選の負け組で今ひとつイケてない女の子たちがメジャーデビューをかけて必死に頑張る姿を見せることで、視聴者の共感を集め、モー娘。の熱烈なファン・サポーターを作ることに成功したわけです。
モー娘。創成期に、つんくが用いた手法のキーワードは「セット売り」と「共感」です。
ものづくりの世界で、こういう手法は使うとしたら、例えば、
- 個々の機能ではあまり魅力的がないが、それらの機能を一つの製品に詰め込んで多機能製品にすることで魅力度を上げる
- 被災地の商品に震災からの復興ストーリーを絡めて見込み客の共感を集める
- 村おこしを目的とした商品に過疎化した村の再生ストーリーを絡めて見込み客の共感を集める
といった手法が考えられます。
これらの手法に共通するのは自分の弱みや痛みを敢えて晒してしまうという考え方です。
自分たちの弱みや痛みを晒すことで見込み客の共感を集め、ムーブメントを作るという手法もあるのです。
▲ デビュー曲「モーニングコーヒー」(*2)。良く言えば素朴。悪く言えば垢抜けていない(笑)。でもそれこそが彼女たちの武器であり、魅力でした。
(2)圧倒的な価値を付加してブームを作る
モーニング娘。は、デビュー後、順調に売上やファンを伸ばしていきました。
しかし、そこそこ人気はあるものの、例えばピンクレディーや松田聖子のような「時代を象徴する存在」とまでは、なりきれていませんでした。
そこで、プロデューサーのつんくが打った次なる手は、グループの中に圧倒的な個を放り込むという荒療治。
そう。
新メンバー・ゴマキ(後藤真希)の加入です。
最年少で、アイドルとしての魅力に溢れるゴマキを加入させるという方法は下手をするとグループを崩壊させかねない劇薬。
でもこれが見事に効を奏しました。
ゴマキ加入後の第7弾シングル「LOVEマシーン」は、ミリオンセラーとなるメガヒット。
モー娘。は一世を風靡する存在となったのです。
モー娘。を黄金期に導くためにつんくが用いた手法は、「圧倒的な価値の付加」です。
それまでのモー娘や同時期に存在していたアイドルを凌駕するような圧倒的存在感を放つゴマキを加入させることで、モー娘。の魅力を何段も上に引き上げ、他の追随を許さない存在にまで導いたわけです。
ものづくりの世界でこういう手法は使うとしたら、例えば、
- 他社製品にはない、画期的な新機能を投入する(その製品の概念を変えてしまうくらいの機能)
- この機能だけは絶対に他の製品に負けないという単機能製品を作る
といった手法が考えられます。
トーストを焼くという機能で圧倒的な差を生み出している、バルミューダのトースター等はその一例ですね。
この手法の場合、機能が「圧倒的」であることが不可欠。
ちょっと優れているだけではダメなんです。
誰が見ても「こいつはスゲぇ!」と認めざるを得ないレベルの製品を世に出すことで初めて、製品がブレイクし、メガヒットに繋がるのです。
▲ モー娘。をブレイクさせたメガヒット曲・第7弾シングルの「LOVEマシーン」(*3)。新加入とは思えないゴマキの存在感! キャッチーなメロディーと覚えやすい振り付けが圧倒的な支持を得ました。
(3)競合品の中に埋没した商品に独自性を付与して差別化する
モーニング娘。は、「LOVEマシーン」の後も、「恋のダンスサイト」、「ハッピーサマーウェディング」、「恋愛レボリューション21」、「ザ☆ピ~ス!」とヒット曲を連発し、黄金期を迎えます(2000-2001年)。
しかし、その後は、CDを出しても10万枚に届かず、TVでの露出も減って、長い冬の時代に入ってしまいました。
この時期のモー娘。はファンの間では「プラチナ期」と呼ばれていて、曲のクオリティもダンスパフォーマンスも高いレベルを誇っていました。
決してアイドルとしての魅力に乏しかったわけではありません。
それでも売れない。
人気も落ちる一方…。
黄金期の反動、音楽業界の停滞…。
色々な要因はあったでしょう。でも一番大きかったのは競合するアイドルの乱立です。
AKB48(2005年-)、ももいろクローバーZ(2008年-)等など。
アイドルの選択肢が広がったことで、モー娘。は、存在感・影響力を失っていったのです。
そんな状況の中、プロデューサーのつんくはモー娘。のフルモデルチェンジを敢行しました。
音楽、ダンスパフォーマンス両面でのテコ入れに着手したのです。
具体的には、海外で主流だったEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)をいち早く日本のアイドルシーンに導入し、しかもフォーメーションダンスという高難度のダンスパフォーマンスに挑戦させました。
フォーメーションダンスは、メンバーが頻繁にポジションを入れ替えながら、複雑なフォーメーションチェンジを繰り返す高度なダンステクニック。そこらのアイドルのちょっとした振り付けとは全く次元が違うダンスパフォーマンスを導入し、これをEDMと組み合わせることで、乱立するアイドルの中で差別化を図ったわけです。
この手法により、完全リニューアルされたモー娘。は、第52弾シングル「Help me!」で3年8か月ぶりとなるオリコン週間シングルチャート1位を獲得し、完全復活を遂げました。
モー娘。を復活させるためにつんくが用いた手法は、「独自性の付与、差別化」です。
競合品が乱立する市場では、「選ばれる理由」、「独自の価値」がなければ、価格競争に持ち込まれ、苦しいビジネスを強いられます。
商品に、他の競合商品にはない魅力を盛り込まなければ買ってもらえないし、安く買い叩かれるわけです。
これは、ものづくりビジネスの世界でも全く同じですね。
- その会社でなければ手に入らない商品
- そこに行かなければ受けられないサービス
にはコアなファン・リピーターが付きます。
特に中小企業の場合には価格競争に持ち込まれないようにしないとビジネスが破綻します。
どこでも買えるもの、代替品があるものを作ってはいけないのです。
ただ、ここで間違えてはいけないのが、独自性が自分たちの強みから生み出されるものでなければ、この手法はうまくいかないという点です。
モー娘。の場合も不遇だったプラチナ期に磨いてきた音楽とダンスのスキルがリニューアルの際にも十分に活かされています。
自分たちの強みを活かしてその見せ方や切り口を変える、新しいテイストを加えるということが大事です。
蓄積された資産を活かすことが必要なのです。
▲ 新生モー娘。を象徴する、第50弾シングル「One・Two・Three」(*4)。アイドルらしいカラフルなコスチュームと激しいダンスパフォーマンスのミスマッチが斬新です。
▲ 3年8か月ぶりにチャート1位を奪取し、完全復活を印象づけた第52弾シングル「Help me!」(*5)。複雑なフォーメーションチェンジが見どころです。田中れいなのヴォーカルと、鞘師里保のダンスパフォーマンスが際立っています。
まとめ
ざっと、モー娘。の20年を振り返りながら、ものづくり・製造業に活かせそうなポイントを拾ってみました。
書いていて思ったのは、人間って飽きっぽい生き物なんだなぁということ(苦笑)
そんな気まぐれで飽きっぽい人達を満足させるためには常に進化し、変化し続けなければいけません。
この点はアイドルも、ものづくりも同じですよ!
参考記事
(*1)モーニング娘。|ウィキペディア
(*2)モーニング娘。 『モーニングコーヒー』 (MV)|Youtube
(*3)モーニング娘。 『LOVEマシーン』 (MV)|Youtube
(*4)モーニング娘。 「One・Two・Three」 (Dance Shot Ver.)|Youtube
(*5)モーニング娘。 『Help me!!』 (Dance Shot Ver.)|Youtube