「セレッソの恋人」がたった1日で販売中止に追い込まれた理由|中小企業のためのブランド戦略・参考事例集

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クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、中小企業専門の弁理士・山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

目次

はじめに

実際の事例の中から、中小企業のブランドづくり・ブランディングに役立つ事例を紹介・解説する不定期連載企画「中小企業のためのブランド戦略事例集」。

今回の事例は、たった1日で販売中止に追い込まれてしまった「セレッソの恋人」です!

「セレッソの恋人」がたった1日で販売中止に追い込まれた理由

Jリーグ・セレッソ大阪が3月8日に発売を発表した、公式グッズ「セレッソの恋人」がたった1日で販売中止に追い込まれました。

参考:「セレッソの恋人」、1日で発売中止に|Lmaga.jp

「セレッソの恋人」はサポーター用の土産品として販売が予定されていたお菓子(プリントクッキー・ラングドシャ)です。

この販売中止に関し、セレッソ大阪のオフィシャルページでは、

「商品販売における権利上の問題はございませんが、皆様からのご意見を頂戴し、協議した結果、販売を中止いたします。」

と発表しています。

ここで、「皆様からのご意見」の内容は明らかにされていません。

しかし、同じJリーグで「白い恋人」の石屋製菓をスポンサーとする北海道コンサドーレ札幌のサポーターが「セレッソの恋人」を「白い恋人」への便乗、あるいは挑発と捉えて多数のクレームを入れたとする情報もあります。

「セレッソの恋人」は、今日(2019.3.9)のサンフレッチェ広島戦でサポーターに販売する予定のグッズでした。
スタジアムで販売するわけですから、相当の数が用意されていたはずです。
商品代金や宣伝費等、セレッソにとっては、かなり大きな痛手となったでしょう。

「セレッソの恋人」のどの辺りが問題だったのか。
ブランドづくり・ブランディングの観点から分析してみましょう。

(1)他社の商標権の侵害となるか

商品名を使ってブランド化を行おうとする際には、その商品名の使用が他社の商標権の侵害となるか、予め確認すべきです。

他社が商標権を持っていれば、その商品名を使うことができないからです。

クレームの原因となったと見られるのは、石屋製菓の「白い恋人」です。
石屋製菓は菓子について「白い恋人」という文字を商標登録しています(商標登録1435156)。

しかし、「白い恋人」と「セレッソの恋人」は明らかに似ていません。

確かに「恋人」という文字の部分は共通します。
しかし、商品名全体を比べると、

● 外観(見た目:文字数、カタカナの有無等)
● 称呼(音:音数、語感等)
● 観念(意味内容:白い≠セレッソ)

が異なっており、商品名が似ているとは言えないのです。

以前、吉本興業が「面白い恋人」という菓子を販売して、石屋製菓から訴えられた事件がありました。

しかし、この裁判は判決を聞くことなく和解に持ち込まれています。
即ち、石屋製菓は「面白い恋人」が「白い恋人」に似ているという判決を勝ち取ることができなかったわけです。
実際、吉本は多少パッケージを変更したものの、「面白い恋人」の商品名を継続して使用しています。

「白い恋人」と「面白い恋人」ですら似ているとは判断されなかった。
この事実を考慮すれば、「白い恋人」と「セレッソの恋人」についても似ていないと判断される可能性が高いと言えます。
言い換えると、菓子の商品名として「セレッソの恋人」を使っても、石屋製菓の「白い恋人」に関する商標権を侵害しているとは言えないということです。

このように、「セレッソの恋人」の使用が他社の商標権の侵害となるか、という点については問題はないと言えます。

(2)不正競争となるか

次に確認したいのは、その商品名の使用が不正競争となるかという点です。

仮に商標権侵害とならなくても、他社の有名な商品名等を勝手に使うと、不正競争行為として、商品名の使用を差し止められたり、賠償金を請求されるケースもあるからです。

しかし、不正競争法の判断においては、セレッソが「セレッソの恋人」という名称で商品を販売することによって、石屋製菓が営業上の利益を害されるかという点が問題になります。

その観点で検討すると、仮にセレッソが「セレッソの恋人」を販売したとしても、

● 「セレッソの恋人」を「白い恋人」と間違えて買う人はいない(石屋製菓の売上は減らない)
● 「セレッソの恋人」が販売されても、石屋製菓のイメージダウンにはならない

と考えられます。
即ち、石屋製菓が営業上の利益を害されることはないと考えてよいでしょう。

このように、「セレッソの恋人」の使用が不正競争となるか、という点についても問題はなさそうです。

(3)法律以外の問題はあるか

最後に確認したいのは、その商品名の使用について法律以外の問題はないかという点です。

仮に法律的には問題がなくても、倫理やモラルの面から見て問題があると、マスコミから追求されたり、社会的な避難を浴びて、いわゆる炎上状態となることもあるからです。

今回の事案で注意すべき点があったとしたら、ここでしょうね。

今回の事案では、特に石屋製菓からセレッソにクレームが入ったわけではありません。
セレッソも「皆様からのご意見を頂戴し、協議した結果、販売を中止」したとコメントしています。

要するに、当事者間に問題は生じておらず、周りが騒いでいるだけなのです。

少し前に、ティラミスヒーローの炎上事件がありましたね。

[blogcard url=”https://yamadatatsuya.com/archives/6385″]

しかし、今回の事件はティラミスヒーロー事件とは意味合いが異なります。

ティラミスヒーロー事件では第三者であるグラム社が、本家「ティラミスヒーロー」のロゴを模倣・盗用し、勝手に商標の出願をしてしまったという事実があります。
グラム社には非難されるべき理由があったのです。

一方、今回の事案では、セレッソは石屋製菓から模倣・盗用を行ったわけではありません。
法律的に見ても、「セレッソの恋人」の使用は問題ないと考えられます。

ただ、それをきちんと説明しないで、販売を中止してしまったのはまずかったですね。
自分たちで問題なしと考えて販売したなら、自信を持って売ればいいんです。

炎上騒ぎを起こすのは大抵の場合、法律を知らない一般人です。
自分の感情に任せて、罪のない相手を非難するケースもよく見かけます。
それをどこまで考慮するか。
その線引きを考えておく必要があるのです。

世間の非難を気にするなら、最初からそんな企画はしない。
自分たちに自信があるなら、世間の声など気にせず、堂々と勝負する。

どちらかに決めておけば、今回のような問題は生じなかったはずです。
とりあえず出したけど、批判されたから引っ込める。

こういうことをすると、自ら非を認めたように見えます。
「権利上の問題はございませんが…」と言ったところで説得力を失ってしまうんです。

まとめ

最近の炎上騒ぎを見ていると、世間の人たちも「パクリ」というものに対して過敏になりすぎ、パクリでないものをパクリだと騒いで炎上させる傾向にあります。

確かに炎上騒ぎはない方が望ましいです。
でも、炎上が怖いから、自分のビジネスを萎縮させてしまうというのも勿体ない気がするんですよね。

そこは弁理士等の専門家に相談する等して、適切な判断をするようにしましょう。

山田 龍也
この記事を書いた人
弁理士/ネーミングプロデューサー/テキスト職人。中小製造業によくある「良い商品なのに売れない」のお悩みをローテク製品の特許取得、知的財産(特許・商標)を活用したブランドづくり、商品名のネーミングで解決している。
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