プロレス技について特許権・商標権を取れるか? 豊田真奈美「ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスを勝手に使うな!」

中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、弁理士の山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

目次

はじめに

3日前(2019.3.22)、元・女子プロレスラーの豊田真奈美さんがご自身のオリジナル技「ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックス」について、「勝手に使ってもらいたくない」とツイートしたことが話題となっています。

これに対し、「特許とか商標登録してるわけじゃないんだし…」という意見も出て、プロレスファンの間で熱い議論が戦わされています。

ということで、今日はプロレス技について特許権や商標権を取れるのかについて解説します。

プロレス技について特許権・商標権を取れるか? 豊田真奈美「ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスを勝手に使うな!」

(1)今回の騒動の背景

豊田真奈美さん。

空中殺法を得意とし、「飛翔天女」と称された人気プロレスラーでした。
そして、この豊田さんが考案したオリジナル技が「ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックス(日本海式竜巻原爆固め)」。長いっ(笑)

相手の両腕を相手の身体の前で交差させ、その両腕を相手の背後から掴み、そのままの状態で相手を肩車し、ブリッジをしながら相手を背後に叩き落とす必殺技です。
相手は腕を取られているため受け身を取れず、後頭部から真っ逆さま。
一撃必殺のフィニッシュ・ホールドなのです。

3日前(2019.3.22)、豊田さんが「ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックス」についてコメントしたのがこのツイートです。

「私が大切に使ってきたオリジナルの技です。」
「他の選手には勝手に使ってもらいたくないのです」

これに対し、同じプロレスラーのTAKAみちのく選手はこんな反論をしています。

「特許とか商標登録してるわけじゃないし絶対他人の技使っちゃいけないなんてルールもない」

「ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックス」については、実際に特許されたり、商標登録されたりという事実はないようです。

では、このプロレス技について特許権や商標権を取れる可能性はあるんでしょうか?
検証してみましょう!

(2)プロレス技について特許権を取ることはできない

結論から言ってしまうと、プロレス技について特許権を取ることはできません。

特許権の対象となるのは発明です。

特許法上、発明は以下のように定義されています。

自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの

この条件を満たさないものは発明に該当せず、特許権を取ることができないわけです。

この条件の中に「技術的思想であること」という条件があります。
「技術的思想」と言えるためには、知識として第三者に伝達できる客観性が必要であるとされています。

この客観性のないものの一つが「技能」です。
「技能」は個人の熟練によって到達しうるものなので、個人差があり客観性に欠けるということです。

特許庁は「技能」の例として、

ボールを指に挟む持ち方とボールの投げ方に特徴を有するフォークボールの投球方法

を挙げています。

プロレス技は、まさにこの「技能」に当たるので、特許権を取ることはできないわけです。

(3)プロレス技の名称(文字)について商標権を取ることはできる。但し…

一方、商標権の方はどうでしょうか?

商標権の対象となるのは商標です。

商標の対象には、

文字、図形、記号、立体的形状

等が含まれます。

そして、商標として認められるためには、その文字や図形等が、

商品または役務(サービス)について使用をするもの

であることが必要です。

このため、商標登録の出願をする際には、商標を記載するとともに、その商標の使用をする商品・サービスを指定して出願手続を行うのです。

ですので、例えば、商標として「ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックス(文字)」、指定商品として「被服(洋服)」を記載して商標登録の出願を行えば、商標登録をされて商標権を取ることができる可能性があります。

この商標権を持っていれば、「ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックス」の文字を表示したTシャツを試合会場で販売する行為を禁止することができます。

しかし、豊田さんが望むように、別の選手がプロレスの試合でこの技を使い、この技の名称を使うことを禁止することができるかというと、これは厳しいです。

プロレス技はそれ自体、商品やサービスではありません。
そうすると、別の選手がプロレスの試合でこの技を使い、この技の名称を使うことを禁止するために指定すべき商品やサービスがないのです。

そうすると、「ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックス」の文字を商標登録し、商標権を取ることができたとしても、その商標権によって別の選手がプロレスの試合でこの技を使い、この技の名称を使うことを禁止することはできないという結論になります。

まとめ

「プロレス技について特許権・商標権を取れるか?」についてまとめると、

(1)プロレス技について特許権を取ることはできない
(2)プロレス技の名称(文字)について商標権を取ることはできる
(3)但し、その商標権によって、別の選手がプロレスの試合でこの技を使い、この技の名称を使うことを禁止することはできない

ということになります。

商標権は文字やマークの使用を全面的に禁止することができる権利ではなく、指定した商品・サービス(又はこれに類似する商品・サービス)との関係においてのみ使用を禁止することができる、というのが大事です。

ここの部分、結構、間違えている人が多いですよ。
よく覚えておいてください!

今回のネタ元は以下のニュース記事です。
興味のある方はこちらもご覧くださいね。

参考:豊田真奈美氏の「オリジナル技論」にマット界から賛同、異論、反論|東スポWeb

山田 龍也
この記事を書いた人
弁理士/ネーミングプロデューサー/テキスト職人。中小製造業によくある「良い商品なのに売れない」のお悩みをローテク製品の特許取得、知的財産(特許・商標)を活用したブランドづくり、商品名のネーミングで解決している。

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