AI vs 弁理士 商標調査対決 観戦記|AIは弁理士の仕事を奪うのか?

中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、弁理士の山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

この記事は、「IT(情報技術)」のカテゴリーに属する記事です。
現代のビジネスとは切っても切れないIT(情報技術)やAI(人工知能)をテーマにしています。

今回は、10月10日の夜に開催された「AI vs 弁理士・商標調査対決」というイベントの観戦記を紹介します。

目次

AI vs 弁理士 商標調査対決 観戦記|AIは弁理士の仕事を奪うのか?

「AI vs 弁理士 商標調査対決」について

このイベントは、特許業務法人Toreru が開発したAIと、生身の弁理士が商標調査のスピードと正確性を競うリーガルバトルのイベントです。

▲ イベント開始前の風景

今まで弁護士が挑むリーガルバトルとして、

第1回 契約書タイムバトル

第2回 契約書タイムバトル AI vs 人間

が、

弁理士が挑むリーガルバトルとして、

第1回「特許の鉄人」~クレーム作成タイムバトル~

が、開催されてきました。
今回のイベントもこの流れを汲むものです。

「特許の鉄人」は、生身の弁理士2人が、一つの発明品を見て、制限時間内に特許の権利請求の書類(クレーム)を作成し、その書類のクオリティを競い合うバトルでした。

これに対し、今回のバトルは生身の弁理士とAIが、あるお題に基づいて、制限時間内に商標の調査を行い、その調査のクオリティを競い合うバトルです。

AI vs 弁理士 ~ 商標調査対決

将棋や囲碁で、AI vs 棋士の対決はよく見かけますよね?
あれの弁理士版と考えるとわかりやすいですね。

AIが勝つか、それとも弁理士が勝つか。
純粋に興味をそそられます。

ヤマダとしては、当然、弁理士の先生を応援していました。
果たして、結果はどうなったんでしょうか?

「AI vs 弁理士 商標調査対決」マッチレビュー

「AI vs 弁理士 商標調査対決」は、以下の3つのステージから構成されていました。

1stステージは「画像商標対決」。

2ndステージは「類否判断対決」。

そして、3rdステージは「識別力対決」。

では、各ステージのバトルを簡単に振り返ってみます。

【1stステージ】画像商標対決

1stステージは「画像商標対決」。

画像商標対決のルールは以下のとおりです。

実際に出願された画像商標1つに対し、最も似ている画像を見つけてくる。
(制限時間10分)
特許庁の審査官が似ていると判断した画像が含まれていれば勝利。

商標登録の出願をした場合、出願した商標と似た商標が先に出願・登録されていると商標登録を受けられません。

このため、商標登録の出願前には出願しようとする商標と似た商標がないか調査を行います。
その場面を模擬したバトルです。

今回のお題はこちら。

ハイビスカスのような花の図形が示されました。

この図形商標は審査で拒絶されています。
その際に審査官が拒絶の根拠とした最も似ている商標を探してくるという問題です。

この対決は弁理士の中村先生が勝利!
見事、審査官が拒絶の根拠とした図形商標を探し出しました。

弁理士が先勝です!

中村先生とToreru AIのPC画面はスクリーンに映し出されていました。
それぞれの調査プロセスが覗けるのが、なかなか面白かったです。

Toreru AIは最初のスクリーニングまでは爆速だったんですけどね。
「さすがAI、すげぇ!」と感じましたから。

ところが、その後の絞り込みがうまくいかなかったようです。
残念!

【2ndステージ】類否判断対決

2ndステージは「類否判断対決」。

類否判断対決のルールは以下のとおりです。

実際に出願された商標を2つ提示し、それが似ているかどうか(類否)を判断する。
(お題10問、制限時間10分)
正答率が高い方が勝利。

1stステージは図形商標が対象でした。
一方、2ndステージは文字商標が対象です。

こんな感じのお題が10題、出題されました。

「もちもち~ず」と「MOCHIMOCHIEETS」。
これを審査官が似ていると判断したか、似ていないと判断したかを当てるわけです。

この対決も7-6の接戦を制し、弁理士の瀬戸先生が勝利!

これで弁理士が連勝です!

上の写真の中に、10問の問題とその回答が表示されています。
見るとわかると思いますが、難題ばかりです…(汗)
これは判断するのは弁理士でもなかなか難儀しますよ。

見事勝利した瀬戸先生、実は元・パチプロだそうで。
勝負師の勘がAIのロジックを打ち負かした、ということですかね(笑)

【3rdステージ】識別力対決

3rdステージは「識別力対決」。

識別力対決のルールは以下のとおりです。

実際に出願された商標とその商品・サービスを提示し、特徴があるかどうか(識別力)を判断する。
(お題10問、制限時間10分)
正答率が高い方が勝利。

1stステージ、2ndステージは2つの商標が似ているかどうか。
この観点で問題が作成されていました。

一方、2ndステージはその商標に識別力があるかどうかという点が問題になっています。

「識別力」とは、その商標が単なる商品説明を示すに留まらず、商品・サービスの提供元を区別する特徴を示す力のことです。
商標登録の出願をした場合、出願した商標が識別力を有していないと商標登録を受けられません。

このため、商標登録の出願前には出願しようとする商標が識別力を有するかどうか調査を行うことがあります。
その場面を模擬したバトルです。

こんな感じのお題が10題、出題されました。

商品「被服(洋服)」について「ダブル盛」という商標。
これを審査官が識別力ありと判断したか、識別力なしと判断したかを当てるわけです。

この対決も7-6の接戦。ToreruのAIが初勝利!
弁理士の岡村先生、残念!

弁理士とAIの三番勝負は2勝1敗で弁理士が制しました!

3rdステージの問題と回答も上記写真に表示されています。
これもなかなか難しい…(汗)
こんなのが仕事で来たら困りますねぇ。

【EXステージ】番外編

実は出場した弁理士の3先生。
2ndステージと3rdステージの問題を全て解答していました。
ご自分が出場しなかったステージの問題も舞台裏で解答していたということです。

2ndステージ、3rdステージのトータル20題の解答では、岡村先生がトップ賞!
AIにも勝利しました。

3rdステージのAIとの直接対決では破れてしまった岡本先生。
見事、名誉挽回。面目躍如です!

AIは弁理士の仕事を奪うのか?

以下、ヤマダの感想です。

いやぁ楽しいイベントでした!
弁理士のような地味な仕事をここまでエンタメ化するのは素晴らしいです。
まだ弁理士の仕事を知らない人に弁理士のことを知ってもらうには、最高のイベントではないかと思いました。

AIと弁理士の勝負はエンタメの要素としては大事です。
しかし、その結果自体はさして重要ではないと考えています。

それは、

● 一次審査の結果を基に正解を決めている
(実際は二次審査や審判で結果がひっくり返ることもある)
● そもそも判断に迷うような事例を問題にしている
● 審査官の判断を基に正解を決めている
(審査官も人間。判断にブレはある)

ということがあるからです。

このイベントを通して感じたのは、

● AIは商標調査の分野で弁理士と遜色ない判断をすることができる
● AIは判断のロジックが決まっているから判断にブレがない
● AIは今後データの蓄積とディープラーニング等の学習により更に判断の精度が上がる(伸びしろしかない)

ということです。

ただ、ヤマダはAIが弁理士の仕事を奪うとは思っていません。
弁理士のやるべき仕事や役割が変わるだけだと考えています。

Toreruの代表弁理士・宮﨑先生も、

「AIには得意な分野と不得手な分野がある」ことを認めた上で、
「お互いがうまく補完できる関係になれれば」

という趣旨のことをおっしゃっていました。

AIは弁理士と違う基準で判断してくれます。
要は判断の手法が豊富化されるということです。

AIは仕事を奪う敵ではない。
きっと良きパートナーとなっていける。

そう信じているヤマダなのでした。

まとめ

「AI vs 弁理士 商標調査対決」いかがでしたか?

来年1月には、「特許の鉄人」の第2弾が予定されているそうですよ。
今回のイベントで弁理士の仕事に興味が湧いた方は是非、足を運んでみてください!

山田 龍也
この記事を書いた人
弁理士/ネーミングプロデューサー/テキスト職人。中小製造業によくある「良い商品なのに売れない」のお悩みをローテク製品の特許取得、知的財産(特許・商標)を活用したブランドづくり、商品名のネーミングで解決している。

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