はじめに
潰れかかった老舗の足袋屋「こはぜ屋」が新規事業としてマラソン足袋の開発に取り組み、悪戦苦闘しながら再生していく様子を描くドラマ「陸王」(*1)。
第2回の放送では、マラソン足袋を開発するための鍵となる特殊素材「シルクレイ」の特許使用を巡ってのすったもんだが展開されました。
今日は第2回の放送内容に絡めて、特許権を持つことの意義・メリットについて考えてみました!(ネタバレあり)
ドラマ「陸王」第2回のあらすじ
マラソン足袋の開発で問題となっていたのはソール(靴底)の耐久性だった。
マラソン足袋は通常のランニングシューズと比べてソールが極端に薄い。
このため、生ゴムのような耐久性が低い素材で作ったソールはすぐに穴が開いてしまい、使い物にならなかったのだ。
こはぜ屋の四代目・宮澤(役所広司)は様々な素材を試してみるものの失敗の連続。
銀行員・坂本(風間俊介)が顧客資料の中から見つけた特殊素材「シルクレイ」に一縷の望みを託す。
繭を加工した特殊素材である「シルクレイ」は、軽量で耐久性・反発性に優れ、マラソン足袋のソール素材として有望であることがわかる。
そこで、宮澤は「シルクレイ」の特許権者・飯山(寺尾聰)に特許使用を願い出るが、飯山から高額の特許使用料を吹っ掛けられて…という展開でした(*2)。
特許権を持つことの意義・メリット
第2回の放送では、マラソン足袋「陸王」の開発に欠かせない特殊素材「シルクレイ」について特許権を持つ飯山が登場しました。
ドラマのシーンを振り返りながら、特許権を持つことの意義・メリットを考えてみましょう。
(1)実施許諾(ライセンス契約)をすることができる
実施許諾契約とは?
ドラマでは、特殊素材「シルクレイ」をソール用の素材として使いたい宮澤は飯山に対し、「特許使用契約」を求めていました。
「特許使用契約」とは、特定の人や会社に対して特許発明を実施(製造・販売など)することを許す契約のことで、正式には「実施許諾契約」と言われています。
一般的な言葉に置き換えると「ライセンス契約」ですね。
「特許」というと、「自分だけがその発明を実施することができる」というイメージを持つかもしれません。
しかし、他の人に特許発明を実施させてもいいわけです。
このような方法は、例えば、工場・製造設備を持たず、商品の企画・開発だけを行うファブレス企業にとっても有効な方法です。
特許権者は実施許諾契約の内容を提案し、交渉することができる
飯山は宮澤と坂本に対し、「シルクレイ」を使いたければ1年あたり5千万円の特許使用料を払えと迫ります。
坂本は未だ世の中で使われていない特許発明に年間5千万は高いと反論しましたが、飯山にそれなら「シルクレイ」を使わせない、と突っぱねられます。
坂本は妥協案として、マラソン足袋の売上のうち一定のロイヤリティを支払う契約(ランニングロイヤリティ方式)を提案するものの、この提案も飯山に一蹴されてしまいました。
このように、特許権を持っていれば、
- 特許発明を使用させる相手
- 特許使用料
- 契約の方式
等について、自分の望むような内容を相手に対して提案し、交渉することが可能です。
但し、最終的な契約の内容は当事者同士の合意で決まる
飯山はこはぜ屋との契約を拒む一方で、全米No.1の化学メーカー「シカゴケミカル」との特許使用契約の交渉を進めていました。
その契約額は年間5千万。
しかし、最後の最後で契約を見送る旨が通告され、契約を結ぶまでには至りませんでした。
特許発明や特許権の価値をどう評価するかは立場によって変わってきます。
特許権者は高く評価し、特許発明を使用したい人はできる限り低く評価し、安く契約したいと思うはずですからね。
特許を持っていれば望むような内容を相手に提案することは可能です。
しかし、それは交渉する相手側も同じです。
あまりに法外な要求(高額の使用料など)を吹っ掛ければ、契約交渉が決裂することにもなりかねません。
交渉が決裂すれば競業他社と手を組まれてしまうこともありえます。
実施許諾契約の内容はあくまで当事者同士の合意で決めるものです。
たとえ特許権を持っていてもビジネスパートナーとなりうる相手を尊重する姿勢は大事です。
(2)共同研究・共同開発の可能性が広がる
特許権を持つことで共同研究・共同開発の可能性が広がる
シカゴケミカルとの契約に失敗した飯山は、こはぜ屋に対し「シルクレイ」を使用させることを決断しました。
その時の絶対外せない条件として提示したのが、「マラソン足袋の開発プロジェクトに自分も参加させろ」という条件でした。
このように特許権を持つことで、共同研究・共同開発の可能性、ビジネスチャンスが広がります。
志を同じくする相手と一緒にビジネスを展開するためのアイテムとして特許権は有効なのです。
勿論、相手の同意は必要です。
しかし、特許権を持っていることで相手からも技術レベルの高さを評価されるでしょうし、自分の弱点を補える相手であれば手を組んでビジネスを拡大したいと考える人は少なくないはずです。
特許を持つことで自社の強みをアピールすることができる
近年、全ての素材を自社で研究開発するという自前主義から、他社の得意技術を積極的に利用し、研究開発のスピードを上げる脱・自前主義に転換する会社が増えています。
自分たちより優れた技術を持っている会社があればその手を借りる、足りないところは他社の技術で補う、という考え方が浸透してきたのです。
そういう時代だからこそ、特許を持ち、自社の強みを対外的にアピールすることが大事になってくるわけです。
「陸王」と同じ、池井戸潤さん原作の「下町ロケット」でも、町工場の佃製作所が保有していた特許によって大企業の帝国重工から技術力を認められるシーンが描かれました。
佃製作所は特許によって自社の強みをアピールし、部品を全て内製化することに拘っていた帝国重工の方針を撤回させ、帝国重工に対して水素エンジンバルブを供給することに成功しています。
(3)財産としての価値がある
特許権はお金と同様に財産としての価値があります。
ドラマの中で、飯山の会社が倒産した際に、未だ製品化されていなかった「シルクレイ」の特許権は財産的な価値がないもの(死蔵特許)として債権者による取り立ての対象にはならなかった、というエピソードが語られました。
このエピソードは、特許権は売ろうと思えば売れる(お金と交換することができる)ということを示しています。
ドラマの中では、飯山は宮澤からの特許使用契約すら拒んでいましたが、金額さえ折り合えば、こはぜ屋に「シルクレイ」の特許権を売却したっていいわけです。
まとめ
以上説明したように、特許権を持つことの意義・メリットとしては、
- 実施許諾(ライセンス契約)をすることができる
- 共同研究・共同開発の可能性が広がる
- 財産としての価値がある
の3点が挙げられます。
「特許を取りたい」という方にその理由を聞いてみると、殆どの方が「真似されたくないから」と答えます。
確かに特許権には他人が発明を実施することを排除し、模倣を防止する効果があります。
しかし、特許技術は使ってなんぼです。
良い技術であればなおさら、自分だけが使うのでは勿体ない。
他者に使わせることでビジネスの可能性を広げていくことも可能なのです。
参考サイト
(*1)日曜劇場『陸王』|TBSテレビ
(*2)あらすじ|TBSテレビ:日曜劇場『陸王』
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