はじめに
潰れかかった老舗の足袋業者「こはぜ屋」が新規事業としてマラソン足袋の開発に取り組み、悪戦苦闘しながら再生していく様子を描くドラマ「陸王」(*1)。
第6回の放送では、ニューイヤーマラソンでの茂木(竹内涼真)の快走を受け、「陸王」の一般向け販売を開始したものの、思った通りに事が進まず、苦悩する宮澤(役所広司)の様子が描かれました。
練りに練った新製品を市場に投入しても、期待した程、売れないというケースはあります。そして、新製品の発売によって新たな問題が発生する場合もあります。
今日は、「新製品の発売時に注意すべきトラブル」をテーマにお話しします!(ネタバレあり)
ドラマ「陸王」第6回のあらすじ
ニューイヤー駅伝の6区。
8位でタスキを受けた茂木(竹内涼真)は「陸王」とともに激走、はるか前方を走っていたライバルの毛塚(佐野岳)を捕らえる。
そして、中継所目前で毛塚を抜き去り、見事、区間賞を獲得する。
茂木の快走に勇気づけられた宮澤(役所広司)は、「陸王」を商品化し、一般向け販売に打って出るが、ブランド力の無さから販売に苦戦する。
そんな中、アトランティスの小原(ピエール瀧)は、「陸王」のアッパー素材を提供していたタチバナラッセルの橘(木村祐一)に近づく。
そして、こはぜ屋への素材供給停止を交換条件にアトランティスとの大型契約を提示し、橘にその契約を認めさせてしまう。
宮澤は橘の対応に憤慨するものの、同じ中小企業の経営者として、橘の判断に理解を示す。
この事件により、こはぜ屋は「陸王」のアッパー素材を失うことになり、一旦軌道に乗りかけた「陸王」の開発に暗雲が立ち込めるのであった(*2)。
新製品の発売時に注意すべきトラブル
社運をかけた新製品がいよいよ発売。
「これで漸く開発の苦労が報われた!」と、ホッと一息つきたくなるかもしれません。
しかし、新製品を発売は色々な問題が発生する端緒にもなります。
新製品を発売するということは、その製品が自分たちの手を離れて市場に出ていく、初めて他の人の目に晒される、ということです。
それによって、開発段階では見えなかった問題が露見してくるわけです。
第5回の放送では、こはぜ屋が「陸王」の一般向け販売を始めたことによって、様々な問題が発生しました。
第5回の放送内容を参考に、新製品の発売時に注意すべきトラブルについて考えてみましょう。
(1)売れない
軽量で耐久性が高く、素足感覚で走れる「陸王」は、トップランナーの茂木(竹内涼真)にも、ランニングシューズの専門家・村野(市川右團次)にも高く評価されています。
高品質・高性能の製品であることに疑いの余地はありません。
宮澤(役所広司)も自信を持って、一般向け販売に踏み切ったはずです。
しかし、これが全く売れませんでした。
社運をかけて発売した新製品が大コケするというのは良く聴く話です。
「絶対売れる!」という確信を持ってリリースしているのに、市場では全く反応がない。
これにはいくつかの理由が考えられます。
「陸王」の例で言えば、
- ブランド力のなさ
- 製品の良さが伝わらない
- ターゲットのズレ
等が理由として挙げられます。
販売店としては、アトランティスの「R2」のような、トップブランドの製品をたくさん棚に並べたいわけです。
売れることが保証されている製品を棚に並べた方がお店の売上が上がりますからね。
だから、製造元も無名、実績もない「陸王」は、いくら高品質・高性能だと訴えたところで、棚に並べてもくれないわけです。
製品を開発する立場からすると、高品質・高性能のものが売れると思いがちです。
しかし、それだけでは製品は売れないということです。
以前の放送で、宮澤が娘の茜(上白石萌音)に「陸王」のテスターを頼んだ時、「R2」と比べてデザインがダサいから履きたくないと拒絶されてしまうシーンがありました(笑)。
製品を売るためには、品質・性能などの技術面の他、デザインやブランド力も必要だということです。
また、「陸王」の良さは履いて走ってみて初めて解るものです。
パッと見で解かるものではありません。
お店の棚に少ししか並べられておらず、おそらく広告なども打っていない「陸王」を手に取ってくれる人は少数でしょう。
そうすると、そもそも製品の良さすら伝わっていないのかもしれません。
更に、「陸王」はトップランナー用のシューズとして要求される品質・性能を満たす素晴らしい製品だけれども、そんな高品質のシューズを一般の人が欲しがるかという点には検討の余地があります。
一般用のランニングシューズとしては過剰品質であり、ターゲットがズレているとも考えられるのです。
「陸王」は1万円を超える価格で販売されていました。
世の中では殆ど知られていないメーカーの未知の製品を1万円出して試す人がどの程度いるか?ということです。
試しに履いてみるには価格が高いですよね。
一般向けであれば、品質を多少妥協しても安価に提供するという方法は考えるべきでした。
この辺りの問題を回避するためには、
- 技術、デザインのバランスが取れた製品を開発する
- 販売開始前に製品情報を十分にリリースし、周知と最低限のブランド化を図る
- 製品のターゲットに合わせた品質・性能、価格を設計する
ことが大事です。
(2)リバースエンジニアリング
こはぜ屋に茂木のサポート契約を奪われたアトランティスの小原(ピエール瀧)は、すぐさま「陸王」を自社の分析部門で分析させ、軽量性、耐久性、通気性の面で「陸王」が「R2」より優れている点を把握していました。
このように他社の製品を分解したり、分析したりして、自社製品の開発に活かすやり方を「リバースエンジニアリング(逆行工学)」と言います。
製品を販売するということは、その製品の仕組みを世の中に晒すことです。
その製品がリバースエンジニアリングの対象となるという点は十分に把握しておかなければいけません。
その製品の仕組みが特許などで保護されていなければ模倣される危険性もあるし、その仕組みが明らかになれば、それにアイデアを加えて更に高性能の製品を生み出される可能性もあります。
そうなると、せっかく開発した製品の優位性は失われてしまうのです。
リバースエンジニアリングに対する対策としては、
- 製品の製造方法のように、製品を分解、分析しても見えない技術情報は営業秘密として厳重に保護する(例えば「陸王」の縫製技術など)
- 製品を分解、分析すれば見えてしまう技術情報に関しては特許を申請しておく
などの対策が考えられます。
(3)提携先の喪失
リバースエンジニアリングによって「陸王」を丸裸にした小原は、「陸王」のアッパー素材に目をつけます。
そして、その提供先であるタチバナラッセルにアプローチし、そのアッパー素材の供給契約を奪い取ってしまいました。
これにより、こはぜ屋は提携先であったタチバナラッセルを失い、新たなアッパー素材を見つけなければ、「陸王」を製造することができないというピンチに陥ってしまったのです。
中小企業の場合、全ての原材料や部品を自前で調達することは不可能です。
そうすると、製品のキーとなる原材料や部品を他の会社から調達しなければならないケースも出てくるでしょう。
しかし、相手もビジネスですから、より有利な条件を提示した会社と取引したいと考えるはずです。
たとえ、取引を打ち切られ、他社に乗り換えられても、これを責めることはできません。
このような事態を避けるためには、
- 契約書を取り交わし、取引の内容を明らかにしておくこと
- 日頃から関係強化に努め、ビジネスだけでなく人間同士の交流を深めること
などが大事です。
まとめ
以上説明したように、新製品の発売時に注意すべきトラブルとしては、
- 売れない
- リバースエンジニアリング
- 提携先の喪失
等があります。
新製品の発売時にはこれらのトラブルが発生するおそれがあることを頭に入れて、事前に対策を打っていきましょう!
参考サイト
(*1)日曜劇場『陸王』|TBSテレビ
(*2)あらすじ|TBSテレビ:日曜劇場『陸王』
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