はじめに
潰れかかった老舗の足袋業者「こはぜ屋」が新規事業としてマラソン足袋の開発に取り組み、悪戦苦闘しながら再生していく様子を描くドラマ「陸王」(*1)。
最終回(第10回)の放送、ご覧になりましたか?
茂木(竹内涼真)がレース直前でアトランティスの「RⅡ」から、こはぜ屋の「陸王」にシューズを履き替え、二年前に怪我でリタイヤした、あの豊橋国際マラソンで復活優勝。感動のフィナーレを迎えました!
3ヶ月に渡って放映された、ドラマ「陸王」。このドラマはものづくりに関わる私達にどんな示唆を与えてくれたのでしょうか?
今日は、「ものづくりに必要なもの」について考えてみたいと思います!(ネタバレあり)
ドラマ「陸王」最終回のあらすじ
宮澤(役所広司)に、こはぜ屋の買収を拒絶された御園(松岡修造)は、後日、宮澤に対し、3億円の融資と、3年間に渡り、相当数のシルクレイを発注することを保証するという業務提携を提案する。
この融資は、5年という極めて短い期間に返済しなければならず、仮に返済できなかった場合、こはぜ屋がフェリックスに買収されるという厳しい条件のものだった。
しかし、どうしても「陸王」の製造を再開したい宮澤は御園の提案を受け入れる。
その頃、茂木(竹内涼真)は2年前に怪我でリタイヤした、因縁の豊橋国際マラソンにエントリーしていた。
アトランティスとの契約から「RⅡ」で走ることを余儀なくされていた茂木だったが、レース直前でアトランティスとの契約を破棄し、今まで自分を支えてきてくれた「陸王」で走ることを決意する。
巧みなレース戦略で先頭集団につけた茂木は、ゴール目前でライバル毛塚(佐野岳)を抜き去って優勝。見事な復活を遂げる。
そして、優勝者インタビューでこはぜ屋に対する感謝の意を表明する。
これを機に、こはぜ屋には「陸王」の注文が殺到。こはぜ屋は一時の低迷を脱し、見事なV字回復を果たしたのであった(*2)。
ものづくりに必要なもの
最終回の放送では、経営不振、資金不足に苦しんできたこはぜ屋が見事なV字回復を果たしました。
10回の放送を振り返りながら、「ものづくりに必要なもの」について考えてみましょう!
(1)独自の技術・ノウハウ
ものづくりには「独自の技術・ノウハウ」が必要です。
技術にオリジナリティがなければ、他社に簡単に追従を許すことになり、競争に勝てないからです。
ランニングシューズ「陸王」を支えている技術は、
- アッパー素材
- ソール素材(「シルクレイ」)
- 縫製技術
です。
この中で、こはぜ屋オリジナルの技術は縫製技術だけです。
100年の伝統を誇る、こはぜ屋の中に蓄積されてきた数々のノウハウ、磨き上げられた職人たちの技倆(ぎりょう)。
これらが素足感覚で走れる「陸王」の抜群なフィット感を産み出す肝の技術となっています。
この縫製技術は特許を取っているわけではありません。
しかし、最新技術を駆使するアトランティスにすら真似のできない、こはぜ屋にとって唯一無二のストロングポイントなのです。
ドラマを見ていると、どうしても特許を取得している特殊素材「シルクレイ」に目が行ってしまいます。
しかし、「シルクレイ」は所詮、飯山のもの。
こはぜ屋が継続的に「シルクレイ」を使うことができるか否かは不透明です。
事実、以前、「タチバナラッセル」から供給してもらっていたアッパー素材はアトランティスに奪われてしまいました。
他人の技術はあてになりません。
だからこそ、最後はオリジナルの技術が大事になってくるのです。
「この技術に関してはどこにも負けない」と言えるオンリーワンの技術があれば、ものづくりが成功する確率はグンと上がるはずです。
(2)挑戦する姿勢
ものづくりには「挑戦する姿勢」「諦めない姿勢」が必要です。
新しいものを産み出す際に失敗や挫折はつきものです。
革新的な製品が一朝一夕に完成する訳はありません。
失敗や挫折から這い上がり、何度も何度もしつこく試作を積み重ねるような執念が、独創的で斬新な製品を産み出すのです。
宮澤は決して鋼のメンタルを持つ人間ではありません。
技術的な障壁、資金不足、競合会社による執拗な妨害工作、社内での軋轢…。
何度も心が折れそうになっていました。
それでも、宮澤は「陸王」を作るという夢を実現するために「挑戦する」「諦めない」という姿勢を崩しませんでした。
その姿勢が最後の最後で宮澤を成功に導いたのです。
最終回の放送でも、宮澤は、
と言って、挑戦し続けることの大事さを、こはぜ屋の従業員に訴えていました。
ものづくりが成功するか失敗するかは紙一重です。
最後、あと1ミリの壁を突き破れば成功するのに、そこで挫けて諦めてしまう人も少なくありません。
「挑戦する」「諦めない」という強固な意思をもって、ものづくりに真摯に立ち向かうことで、必ず道は切り開かれるのです。
(3)思い
ものづくりには「思い」が必要です。
「製品にかける思い」「ユーザーに対する思い」。
たとえ品質が良くても「思い」がこもっていない製品はユーザーの心を捉えることができないからです。
度重なる改良を経て、アトランティスの「RⅡ」は、こはぜ屋の「陸王」と遜色ないレベルのシューズに仕上がっていました。
一方、こはぜ屋はシルクレイ製造機の故障でシューズを供給できず、資金不足で会社の存続すら危うい状況でした。
それでも茂木はアトランティスとの契約を破棄して「陸王」を選び、大事なレースに臨んだ。何故だと思いますか?
茂木はこんなことを言っています。
今は共感の時代と言われています。
製品の善し悪しだけではなく、作り手の「製品にかける思い」を感じられるかどうか、作り手に共感できるかどうかというのも、その製品を選んでもらえるかどうかの大事なポイントになってきます。
そして、もう一つ大事なのはその「思い」が独りよがりなものではなく、ユーザーの立場に立ったものであること。
この点で、利益重視のビジネスライクな関係に徹し、「ユーザー=自社の収益」としか見ていなかったアトランティスは最後の最後で茂木に見切りをつけられてしまいました。
利益も大事。効率も大事。
それでも、ユーザーに向き合っていないものづくりは看破されてしまうものです。
皆さんはユーザーと向き合ったものづくりをしていますか?
ユーザーと一緒に走っていますか?
今一度、自分の仕事を振り返ってみてください!
まとめ
さて、10回に渡ってお届けしてきた「陸王」シリーズの最終回、いかがでしたか?
ものづくりには、
- 独自の技術・ノウハウ(オリジナリティ)
- 挑戦する姿勢、諦めない姿勢
- 思い(製品にかける思い、ユーザーに対する思い)
が大事です。
どこにも負けないオンリーワンの技術を磨き、失敗や挫折があっても挑戦する姿勢、諦めない姿勢を崩すことなく、ユーザー目線のものづくりをしていきましょう!
おまけ(その1)
ドラマの中の隠れアイテム・隠れキャラ。
最終回の隠れキャラはマラソンの瀬古利彦さんでした。
大地の第一志望の会社・メトロ電業の面接官として登場していましたね。大地を面接する際に「陸王」を手にし、「これはすごいなぁ!」と一言。
伝説のマラソンランナー・瀬古さんなら、「陸王」の素晴らしさを一目で理解することができるはずです。
説得力がある1シーンでした(笑)
おまけ(その2)
有村(光石研)のスポーツショップのテレビに、豊橋国際マラソンを優勝した後の茂木の戦績がちらっと写っていました。
世界陸上で5位、そしてマラソンの日本新記録樹立。
着実に実績を積み重ねてきた茂木はオリンピックの切符を懸けて東日本国際マラソンに臨みます。
号砲が鳴り、茂木が勢い良くスタートを切るシーンでドラマはエンディングを迎えました。
参考サイト
(*1)日曜劇場『陸王』|TBSテレビ
(*2)あらすじ|TBSテレビ:日曜劇場『陸王』
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