ドラマ「陸王」に学ぶものづくりのヒント(9) ~大企業とビジネスをする際に検討すべき点~

クロスリンク特許事務所(銀座・東銀座・新橋)・弁理士のヤマダです。

はじめに

潰れかかった老舗の足袋業者「こはぜ屋」が新規事業としてマラソン足袋の開発に取り組み、悪戦苦闘しながら再生していく様子を描くドラマ「陸王」(*1)。

第9回の放送では、こはぜ屋をフェリックスに売却するか否かで逡巡する宮澤(役所広司)と、売却騒動に心が揺れ動くこはぜ屋メンバーの様子が描かれました。

資金難のため、こはぜ屋の売却を検討せざるを得なくなった宮澤は、米国アパレル大手・フェリックスの御園(松岡修造)との交渉に臨みました。
こはぜ屋のような中小・零細企業が大企業とビジネスを行う際にはどんな点に注意すれば良いのでしょうか?

今日は、「大企業とビジネスをする際に検討すべき点」について考えてみたいと思います!(ネタバレあり)

ドラマ「陸王」第9回のあらすじ

「陸王」を作り続けるために、宮澤(役所広司)はフェリックス・御園(松岡修造)との間で、こはぜ屋の売却について交渉を進めていた。

しかし、あけみ(阿川佐和子)をはじめ従業員は会社の売却に猛反対。従業員の士気はガタ落ちとなり、日々の業務にも支障が出始める。

そんな状況の中、一人粘り強く「陸王」のアッパー素材を探していた大地(山崎賢人)は、「タテヤマ織物」からの素材供給を勝ち取り、茂木(竹内涼真)のために、最後の「陸王」を届けたいと訴える。

大地の訴えに心を動かされた、こはぜ屋の従業員たちは、たった一足の「陸王」を作るために結束を取り戻し、遂に5代目「陸王」を完成させたのだった(*2)。

大企業とビジネスをする際に検討すべき点

第9回の放送では、こはぜ屋の買収を目論む御園と、こはぜ屋を売却したくない宮澤が対峙し、互いの主張をぶつけ合う白熱した交渉シーンが描かれました。

第9回の放送内容を参考に、大企業とビジネスをする際に検討すべき点について考えてみましょう!

(1)相手の目的は何か?

第9回の放送では、資金面での行き詰まりから、こはぜ屋の売却に心が傾く宮澤に対し、技術顧問の飯山(寺尾聰)が「みんなの前で、御園社長が信頼できる男だって言えるのか?」と問い質し、こはぜ屋の売却について再考を促すシーンがありました。

企業買収に限らず、大企業が中小・零細企業との協業を模索する裏には何某かの目的があるはずです。その目的なり真意なりをできる限り正確に把握することが大事です。

銀行員の大橋(馬場徹)も指摘していたように、「一旦、子会社になってしまえば相手の言う通りにするしかない」のです。

 

今回のフェリックスの目的は、こはぜ屋の持っている特殊素材「シルクレイ」です。こはぜ屋という会社が欲しいわけではありません。「シルクレイ」さえ手に入れば、こはぜ屋を切り離して再度売却してしまうことだって可能なわけです。

 

現実の世界でも同様のことは起こっています。

グーグルは携帯電話大手のモトローラを買収し、モトローラの特許だけを手元に残し、極めて短期間でモトローラの会社本体をレノボに売却しています。グーグルはモトローラという会社を吸収することに魅力を感じていたわけではなく、自ら開発するアンドロイド端末のためにモトローラの保有する携帯端末関係の特許が欲しかったのです。

虎の子の技術だけを取り上げられ、身ぐるみ剥がれて放り出されたら、たまったものではありませんよね。相手の目的を正確に把握することで、このような事態を避けることができるわけです。

(2)自分の目的は本当に果たせるのか?

フェリックスの御園は、買収に応じれば、

● 即時、3億円の資金を投入する(「陸王」の製造を継続することができる)
● こはぜ屋の看板は残してもよい
● 足袋の製造を継続してもよい
● 宮澤が社長を続投してもよい

という、一見、魅力的な提案をしています。宮澤がこれを断る理由は何もないようにも思えます。

 

しかし、会社は「金」と「物」だけで成り立っているわけではありません。大事なのは「人」です。

実際、会社の売却騒動で、従業員の心は宮澤から離れてしまい、こはぜ屋は空中分解寸前まで追い込まれました。いくらお金が投入されても従業員の士気が落ちてしまえば会社はうまく回りません。

長年培ってきた伝統や社風が失われる可能性もあります。大企業は合理性や生産性を重視しますから、丁寧な仕事、品質重視といった姿勢を変えさせられることもあるかもしれません。

従業員のあけみも自分の腕試しのため、こはぜ屋から大手アパレルメーカーに転職したものの、自分の得意とする縫製技術は求められず、ひたすら効率化だけを求められ、失望した過去を語っていました。

「金」や「物」と引き換えに、

● 自分の会社にとって本当に大事なものを失ってしまうものはないか
● 自分の目的は本当に果たせるのか?

という点については、じっくり検討した方がよいでしょう。

(3)条件を交渉する余地はないか?

第9回の放送では、技術顧問の飯山が宮澤に対し、「別の可能性はないのか?」「もっと悪あがきしてもいいんじゃないか?」と語り、条件闘争の可能性を示唆しています。

大企業との交渉では中小・零細企業は下手に出ざるをえず不利な交渉を迫られることも珍しくありません。そんな時、相手の目的を頭に入れ、相手に何か弱みがないか考えてみることが大事です。相手に弱みがあれば、そこを突いて条件闘争に持ち込める可能性があるからです。

 

フェリックスの目的は「シルクレイ」でした。

そして、前回の放送で御園は、

● シルクレイに魅力を感じ、同様の素材の開発に取り組んだがうまくいかなかったこと
● 自社で同様の素材を開発するには長期間を要すること
● すぐにでも自社商品にシルクレイを投入したいから、こはぜ屋の買収を企図したこと

等を吐露しています。

「すぐにでもシルクレイを使いたいのに、手元にはない。自社で開発することもできない。」

これが米国アパレル大手・フェリックスの唯一の弱みと言っても良いでしょう。

 

宮澤はここを巧みに突きました。こはぜ屋を買収されることなくフェリックスと業務提携することに成功し、資金供給を受けながら「陸王」の製造を継続することができるようになったのです。

このように、大企業とは言え、相手の目的を知り、その弱みを炙り出せば、条件闘争に持ち込める可能性はあります。条件を交渉する余地はないか、という点については十分に検討する必要がありそうです。

まとめ

以上説明したように、大企業とビジネスをする際には、

● 相手の目的は何か?
● 自分の目的は本当に果たせるのか?
● 条件を交渉する余地はないか?

について検討した方がよさそうです。

大企業との協業は中小・零細企業にとって魅力的です。しかし、協業そのものを目的とすることなく、自分のビジネスの発展に役立つ協業を目指して欲しいと思っています!

おまけ

ドラマをじっくり視聴していると、色々な小細工、仕掛け、隠れアイテムが出てきます。今回、ヤマダが「!!!」と思ったのは、長距離ランナー・茂木が出場するレースのスポンサーです。

下のダイジェスト動画のキャプチャー画面を見てください。茂木のゼッケンには、あの「帝国重工」のロゴマークが入っています。下町ロケットで、佃製作所と鍔迫り合いを演じた、あの帝国重工ですね!

池井戸ドラマファンにとっては嬉しい演出でした。

参考サイト

(*1)日曜劇場『陸王』|TBSテレビ

(*2)あらすじ|TBSテレビ:日曜劇場『陸王』

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プロフィール

山田 龍也(やまだ たつや)
山田 龍也(やまだ たつや)
ものづくりとブランドづくりの専門家/弁理士/ブロガー。
中小製造業のものづくり、個人事業主のブランドづくりを支援中。
特許・実用新案・意匠・商標の権利取得手続; 知財戦略・商品の差別化戦略の立案; 商品の企画・開発に関するアドバイス; 情報発信を用いたブランディング・マーケティング; が得意。

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