ドラマ「下町ロケット」に学ぶものづくりのヒント(2)|特許権取得のメリット

目次

はじめに

ドラマ「下町ロケット」に学ぶものづくりのヒント。

各回のドラマのシーンを振り返り、ものづくりのヒントになりそうな事項を紹介していきます。

今日は第2回の放送の中から、特許権取得のメリットについてご紹介します。

ドラマ「下町ロケット」第2回のあらすじ

佃製作所は大森バルブとのコンペに勝利し、ギアゴーストとの取引に向けて前進する。

しかし、そんな矢先、ギアゴーストの主力トランスミッション「T2」が特許を侵害しているとして、ライバル会社のケーマシナリーから15億円という多額の賠償金を請求されてしまう。
「T2」開発時に、島津(イモトアヤコ)が特許調査を行ったものの、その時は空白の18箇月の期間にあり、ケーマシナリーの特許の存在に気づかなかったのだ。

佃製作所の顧問弁護士・神谷(恵俊彰)は、佃(阿部寛)に対し、ケーマシナリーのトランスミッションをリバースエンジニアリングすることを提案する。
仮に、ケーマシナリーがギアゴーストの特許を侵害していれば、クロスライセンスの契約を結ぶことにより、賠償額を減額できる可能性があるからだ。

佃製作所とギアゴーストは協力して、ケーマシナリーのトランスミッションのリバースエンジニアリングに臨む。
しかし、両社の努力も虚しく、ケーマシナリーがギアゴーストの特許を侵害している事実を見出すことはできない。
リバースエンジニアリングが日の目を見なかったことで、ギアゴーストは窮地に追い込まれ、会社存続の危機を迎えてしまうのであった。

用語解説

ドラマの中に出てきた用語をざっくり解説します。

(1)空白の18箇月

特許出願の内容が秘密状態に置かれる期間のことです。

特許出願の書類に記載された内容は出願手続きから1年6月(18箇月)経過後に一般に公開されます(出願公開)。

逆に言えば、出願から1年6月を経過するまでの間は特許出願の内容は特許庁の中で秘密状態に置かれ、誰も見ることができません。
どの会社がどんな特許を出したか調査することもできないわけです。

ドラマでは、この出願から出願公開までの期間を「空白の18箇月」と表現していました(実務上、この呼び方が定着しているわけではありません)。

(2)クロスライセンス

特許権を持っている者同士が、相手の特許発明を自分が使わせてもらう代わりに、自分の特許発明を相手に使わせることです。

例えば、A社が特許発明Xについて特許権を持ち、B社が特許発明Yについて特許権を持っている場合に、A社がB社の特許発明Yを使わせてもらう代わりに、B社はA社の特許発明Xを使わせてもらう、ということが行われます。

特許発明を実施する権利(ライセンス)を交換するような形になるので「クロスライセンス」と言います。

(3)リバースエンジニアリング

他社製品を分解・分析して、その技術の中身を確かめることです。

特許技術の内容は製品の外見だけでわかるとは限りません。
機械であれば、分解して内部の部品の構造を確認したり、化学品であれば、成分を分析して含まれている成分の種類や含有量を確認します。

競合会社の製品が自分の会社の特許を侵害していないか確認したり、他社の技術の特徴や強みを把握し、自分の会社の技術開発にフィードバックする等の目的で行われます。

特許権取得のメリット

ある技術について特許権を取得するメリットというと、「他の会社にその技術を真似されないようにすること」と答える人が多いでしょう。

しかし、特許権を取得するメリットは、それだけではありません。
特許権は他の会社との交渉のタマとして使うことができるのです。

他社の技術であっても優れた技術であれば喉から手が出るほど欲しいもの。
その技術について特許権を取られていれば、通常、他社はその特許技術を使うことはできません。

しかし、自分が持っている特許技術を使わせることを交換条件として、他社の特許技術を使わせてもらうことを交渉するということは可能です。
お互いが魅力的な特許技術を持っているのであれば、その技術を持ち合えばいいわけです。

これにより、その2つの会社は優れた特許技術を2つとも持つことができます。
この2社は競業他社に対して極めて優位な立場を築くことができ、製品シェアの拡大を図ることができるわけです。

第2回の放送でも、ギアゴーストがケーマシナリーのトランスミッションをリバースエンジニアリングで解析し、自らの特許を侵害していないか検証するシーンが出てきました。
ケーマシナリーがギアゴーストの特許権を侵害していれば、その特許権を交渉のタマとして、ケーマシナリーとクロスライセンス契約を結ぼうとしたわけです。

このリバースエンジニアリングは、結果的に失敗に終わりました。
しかし、特許権を単に他社による模倣防止の手段と考えるのではなく、交渉のタマとして使えるのだということは常に頭に入れておくべきです。
そうすれば、知財戦略の幅も大きく広がってきます。

まとめ

以上説明したように、特許権取得のメリットとしては、

● 他社による特許技術の模倣を防止することができる

のは勿論、

● 他社との交渉のタマとして使うことができる

ことが挙げられます。

勿論、その特許技術が他社にとっても魅力的な技術であることは大前提ですけどね(笑)

おまけ

第2回の放送で、阿部寛が演じる佃社長のセリフ。

「商売下手はうちの専売特許だな。」
「こればっかりは誰も特許侵害してくれないけどな!」

 

上司(特に社長)が渾身の親父ギャグをカマしてきたら、部下の皆さんはちゃんと笑ってあげないとあかんで(笑)

参考サイト

(*1)日曜劇場『下町ロケット』|TBSテレビ

TBSテレビ
『下町ロケット』 TBS「『下町ロケット』」の番組情報ページです。

(*2)あらすじ|TBSテレビ:日曜劇場『下町ロケット』

TBSテレビ
『下町ロケット』 TBS「『下町ロケット』」の番組情報ページです。

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山田 龍也
この記事を書いた人
弁理士/ネーミングプロデューサー/テキスト職人。中小製造業によくある「良い商品なのに売れない」のお悩みをローテク製品の特許取得、知的財産(特許・商標)を活用したブランドづくり、商品名のネーミングで解決している。

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