はじめに
ドラマ「下町ロケット」に学ぶものづくりのヒント。
各回のドラマのシーンを振り返り、ものづくりのヒントになりそうな事項を紹介していきます(ネタバレ防止のため、一週遅れで配信しています)。
今日は第5回の放送の中から、特許権侵害訴訟と特許無効の関係について解説します。
ドラマ「下町ロケット」第5回プレイバック
ギアゴーストはケーマシナリーとの交渉が不調に終わり、ケーマシナリーから特許権侵害で訴えられてしまう。
佃(阿部寛)は将来的な提携を目指すギアゴーストを護るため、佃製作所のメンバーにケーマシナリーの特許を無効にするための資料を探し出すよう命じる。
佃らの資料探しは難航を極めたものの、島津(イモトアヤコ)の記憶がヒントとなって、島津の母校の図書館からケーマシナリーの特許発明の基となった技術に関する文献を探し出す。
しかし、神谷(恵俊彰)は、その文献の情報だけではケーマシナリーの特許を無効にするには不十分と判断し、佃らにこの裁判の旗色が悪いことを示唆する。
そして、ついに迎えた特許侵害訴訟・第一回口頭弁論の日。
神谷は開廷が迫ってもなかなか法廷に現れない。
口頭弁論の当日まで証拠集めに奔走していたのだ。
開廷直前に漸く現れた神谷は裁判長に追加の証拠書類を提出する。
その証拠書類にはギアゴーストの顧問弁護士だった末永(中村梅雀)がギアゴーストの技術情報をケーマシナリーに漏洩させていたという衝撃的な事実が記載されていたのであった。
特許権侵害訴訟と特許無効の関係
特許権侵害訴訟では特許の有効性が問題となることがあります。
神谷は裁判の冒頭で、
と、述べています。
(1)特許が無効であれば特許権侵害は成立しない
特許権侵害に関する裁判では、まず被告の製造販売していた製品が原告の特許発明と同じものであるかどうかが争点になります。
被告製品が原告の特許発明と同じものでなければ、特許権侵害は成立しないからです。
しかし、被告側が、被告製品が原告の特許発明とは違うものであることを証明できない場合もあります。
その場合には、被告側は原告特許が無効である旨の主張をして原告側の追求をかわそうとするわけです。
原告の特許発明はそもそも特許されるべきものではなかった、だから原告の特許は無効であり、我々がその特許発明と同じ製品を製造販売しても特許権侵害にはならないのだ、という理屈です。
特許出願した発明が特許を受けるためには、出願した時に既にあった技術とは異なるものであり、新しさがあること(新規性)、出願した時に既にあった技術から簡単に思いつくものではないこと(進歩性)等、様々な条件をクリアする必要があります。
しかし、特許庁の審査で全ての証拠を探し出すのは困難です。
そのため、本来は特許を与えるべきでない発明に特許が与えられてしまうこともあるのです。
(2)栗田准教授の学術論文を証拠として、ケーマシナリーの特許を無効にできるか
佃らは島津の母校の図書館からケーマシナリーの特許発明の基となった技術に関する文献を見つけ出しています。
東京技術大学・栗田准教授の「CVTにおける小型プーリーの性能最適化について」という学術論文です。
栗田准教授の論文には、ケーマシナリーの特許の対象となった副変速機の構造の根幹部分の多くが記載されていました。
そして、神谷によれば、栗田准教授は「この技術を技術発展のために公開した」と言っていたそうです。
即ち、栗田准教授の技術は誰もが自由に使っていい自由技術だということです。
仮に、ケーマシナリーの特許対象である副変速機が栗田准教授の論文に記載されてた副変速機と全く同じ構造である場合、ケーマシナリーの副変速機の構造には新しさ(新規性)がありませんよね?
その場合には、ケーマシナリーの特許を無効にすることができるのです。
しかし、栗田准教授の論文には、ケーマシナリーの特許対象である副変速機の構造の全てが記載されてはいませんでした。
ケーマシナリーの特許対象である副変速機(本当は島津が発明したものですが)は、栗田准教授の副変速機に工夫を加え、改良したものです。
即ち、栗田准教授の副変速機とは全く同じ構造ではなく、少なくとも新しさ(新規性)はあったということです。
そして、ケーマシナリーの副変速機が栗田准教授の副変速機から簡単に思いつかない程度に工夫・改良されたものであれば、その発明には進歩性が認められ、特許になる可能性もあります。
栗田准教授の論文を精査した神谷は、この論文だけではケーマシナリーの特許を無効にするのは難しいと判断したのでしょう。
佃たちに、
と話しています。裁判の中で、神谷は、
と主張していましたが、これは神谷の本心ではないわけです。
(3)技術情報の不正な取得を理由として、ケーマシナリーの特許を無効にできるか
神谷は栗田准教授の論文だけではケーマシナリーの特許を無効にするには証拠不十分と考え、二の矢を用意していました。
神谷はこんな主張をしています。
ざっくり言えば、ケーマシナリーの特許の対象である副変速機は、本当はギアゴーストの島津が発明したものにも拘らず、それを盗んだケーマシナリーが勝手に特許出願をしたということを主張しているわけです。
特許を受ける権利があるのは、発明者自身か、発明者から正当にその権利を譲り受けた人(会社等の法人でもよい)だけです。
ケーマシナリーはギアゴーストの顧問弁護士だった末永からギアゴーストの技術情報を不正に受け取り、その技術について特許を取得しています。
発明者はケーマシナリーの社員でもないし、ケーマシナリーが真の発明者である島津から正当にその権利を譲り受けたわけでもありません。
そもそもケーマシナリーは特許を受ける権利を持っていないのです。
特許を受ける権利を有しない者がした特許出願のことを「冒認出願」と言い、冒認出願により特許が取得されたときはその特許を無効にすることができます。
即ち、ケーマシナリーの特許は、本来無効にされるべきものですから、ギアゴーストはケーマシナリーの特許権を侵害していることにはならないということです。
まとめ
「そんな産業スパイみたいなこと、実際にあるの?」と思った方もいるかもしれませんね。
でも、似たようなトラブルは実際にあります。例えば、
- 退職者が会社の技術を勝手に持ち出して特許を申請してしまった
- 2社で共同研究していたが途中で仲間割れ。一方の会社が他方の会社の研究成果について勝手に特許申請してしまった
- 開発品を売り込みに行ったら、売り込み先の会社が勝手に特許申請してしまった
なんてケースはあり得るのです。
技術情報の管理には十分な注意が必要ですよ!
参考サイト
(*1)日曜劇場『下町ロケット』|TBSテレビ
(*2)あらすじ|TBSテレビ:日曜劇場『下町ロケット』
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