先行商標調査の重要性。鹿児島ユナイテッドFC、フットサルコートの名称を急遽変更|中小企業のためのブランド戦略事例集

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クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、中小企業専門の弁理士・山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

Jリーグ2部・鹿児島ユナイテッドFCが今月下旬(2019.4.28)オープン予定のフットサルコートの名称を急遽変更しました。どうやら、既に商標登録されていたのを見逃していたようです。

今日は、ブランドづくりの初期段階で必要となる先行商標調査について学んでみましょう!

目次

先行商標調査の重要性。鹿児島ユナイテッドFC、フットサルコートの名称変更を発表

実際の事例の中から、中小企業のブランドづくり・ブランディングに役立つ事例を紹介・解説する不定期連載企画「中小企業のためのブランド戦略事例集」。

今日の事例は、鹿児島ユナイテッドFCのフットサルコート「鹿児島ユナイテッド・ゾーン」です

Jリーグ2部・鹿児島ユナイテッドFCが今月下旬(2019.4.28)オープン予定のフットサルコートの名称を「ユナイテッドパーク」から「鹿児島ユナイテッド・ゾーン」に急遽変更しました。

オープンまで一ヶ月を切ったこの段階で急遽名称変更したのは、同じJリーグ2部・ジェフユナイテッド千葉が「ユナイテッドパーク」を既に商標登録していたことが発覚したからです。

商標登録5320937「ユナイテッドパーク\UNITED PARK」|特許情報プラットフォーム(J-Platpat)

この商標登録の内容を見てみると、商品・役務(サービス)として第41類「運動施設の提供」等も含まれています。これを回避するのが厳しいですね…。

そのまま使用すれば、ジェフユナイテッドの商標権を侵害することになってしまいます。それが土壇場で判明して(クレームが入って?)、止む無く名称変更と相成ったわけです。

そもそも「ユナイテッド」は「マンチェスター・ユナイテッド」のように、サッカークラブの名称にはよく使われる言葉です。それを先行商標調査もせずに使ってしまった鹿児島ユナイテッドはかなり迂闊だったと言えます。

それに、ジェフユナイテッドとは同じJ2に所属する、いわばライバル同士。もっと大きなトラブル(裁判沙汰)になってもおかしくありませんでした。

今回の鹿児島ユナイテッドの失敗を教訓に、ブランドづくりをする際に先行商標調査をしなければいけない理由を考えてみましょう。

他人の商標権を侵害してしまうリスクを減らす

理由の1つ目は、他人の商標権を侵害してしまうリスクを減らせるからです。

既に誰かがその商標を登録している場合、第三者がそれと似た商標を勝手に使うことはできません。無断で使えば、その行為は商標権の侵害となります。

まだ商標登録に至っていなくてもその名称について既に商標登録の出願がされている場合。この場合も、ゆくゆくその名称が商標登録されれば勝手に使うことはできなくなります。

そういう事態を防止するために、ブランド名(会社名、商品名、サービス名等)を使い始める前に予め、

  • 既に登録されている商標(登録商標)
  • 既に出願されている商標(出願商標)

について先行商標調査をし、自分が使おうとしている商標を誰かが先に唾を付けていないか調べておく必要があるわけです。

他人の商標権を侵害してしまった場合の業務上の損失を防ぐ

理由の2つ目は、他人の商標権を侵害してしまった場合の損失を防げるからです。

理由その1をもう少し具体的に考えてみましょう。仮に他人の商標権を侵害してしまったらどういうことになるかということです。具体的には、以下のような業務上の損失が考えられます。

使おうとしている商標を使えなくなる(使用禁止)

「名前を変えればいいんでしょ?」と思う人もいるかもしれませんが、事はそう簡単ではありません。

例えば、飲食店がお店の名前がいきなり使えなくなったケースを想像してみてください。看板、店名の入った食器、持ち帰りの紙袋、制服、メニュー、ホームページ…。店名はあらゆるところに記載されています。

仮に商標権の侵害となってしまうと、それらを全て削除してからでなければ営業を再開することができません。短くはない期間、休業を迫られることになります。これは、営業上、かなりのダメージですよね。こうなってしまうと、ブランド戦略は一からやり直しです。

過去の使用行為に対して金銭の支払いを請求される(損害賠償)

既に誰かがその商標を登録していた場合、警告を受けた後に商標の使用をやめれば許してくれるかというとそうとも限りません。過去に無断で商標を使っていた行為(過去の侵害行為)に対して損害賠償金を請求されることがあるからです。

商標権者から警告を受けて商標の使用をやめたとしても、過去の侵害行為がなくなるわけではありません。その罪はお金で償うということになるわけです。

今まで築き上げてきた業務上の信用・ブランドイメージが失墜する(ブランド力の低下)

仮に商標権の侵害が認められてしまうと、企業イメージはかなり悪くなります。

「あそこのお店、他のお店の商標をパクったんだって!」
「商標権を侵害する悪い会社らしいよ」
「あのお店、好きだったのに。もう行くのやめるわ」

そんな風評が立ってしまうと、もう営業どころではありません。ネットの世界で炎上状態になる可能性だってあるのです。

少し前にあった「ティラミスヒーロー事件」を覚えていますか?

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あの事件で炎上したのは商標権者の方です。先に出願して商標権を持っていたのに、あいつはずるいことをした、悪い奴だ、ということで炎上したわけです。結果的に、あのお店は閉店に追い込まれました。

これが、商標権を侵害した方の立場だったら?失うものはとてつもなく大きくなる可能性があるのです。

ブランド戦略を立てるためのデータを取る

理由の3つ目は、ブランド戦略を立てるためのデータを取ることができるからです。

ブランド戦略においては、自分がどういうブランドを創りたいかということに加えて、協業他社との差別化が大事です。

競合他社がどんなブランド名を使うのか、どんなブランド展開を考えているかを知ることが大事です。それを知り、それとは異なるブランド名を使って、独自性を打ち出して行く必要があるからです。

協業他社の出願商標や登録商標はその会社のブランドに対する考え方を知る絶好の材料です。これらを見れば、その会社がどんなブランド展開を考えているか、ある程度見えてくるからです。

ブランド戦略は陣取り合戦のようなものです。他社が押さえているエリアは諦めて、他のところを開拓する必要があります。

自分が使いたかった名前を他の会社に先に商標を押さえられてしまった。そういうことになってしまったら、そこに恋々とせず新しい名前を考えればいいんです。名前やマークは無限に生み出すことができるんですから。

悔しがっている暇があったら、もっといい名前を考えて、それを育てていきましょう。

まとめ

今日は、鹿児島ユナイテッドの失敗を教訓に、ブランドづくりをする際に先行商標調査をしなければいけない理由を考えてみました。

理由としては、

  • 他人の商標権を侵害してしまうリスクを減らすため
  • 他人の商標権を侵害してしまった場合の業務上の損失を防ぐため
  • ブランド戦略を立てるためのデータを取るため

の3つです。

ビジネスで何らかの名前を使うためには、他人の商標権を侵害しないことが大前提です。だから、先行商標の調査が必要です。私の周りを見ていると、この点についてかなり無頓着な方が多いです。

中には、「これは商標権の侵害になるから、使うのを止めた方がいい」とアドバイスをしているのに、

「これくらいなら大丈夫ですよね?」
「うちはそんなに大きな商売をしているわけじゃないし…」
「わざわざ何か言ってきたりしないですよね?」

等と、のんきなことを言っている人がいます(嘆)

私も最初は忠告しますが(イエローカード)、この人は言ってもわからないんだなと思ったらもう言いません。レッドカードで一発退場ということになりませぬよう…。

先行商標調査には、専門的な知識が必要です。素人さんには調べるのも、適切な判断をするのも難しいと思います。

もし不安な事があれば、ぜひ商標とブランドの専門家・弁理士まで相談に来てください。お待ちしています!

山田 龍也
この記事を書いた人
弁理士/ネーミングプロデューサー/テキスト職人。中小製造業によくある「良い商品なのに売れない」のお悩みをローテク製品の特許取得、知的財産(特許・商標)を活用したブランドづくり、商品名のネーミングで解決している。
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