「特許の鉄人 クレーム作成バトル」とは|第2回特許の鉄人観戦記

中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、弁理士の山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

この記事は、「特許権・実用新案権で護る(技術)」のカテゴリーに属する記事です。
製造業・ものづくり・技術とは切っても切れない特許権・実用新案権をテーマにしています。

今回は、2020年1月17日の夜に開催された「特許の鉄人 クレーム作成バトル」というイベントの観戦記です。
弁理士の大事な仕事の一つ、「クレーム作成」を知りたい方にはもってこいの記事です。

目次

「特許の鉄人 クレーム作成バトル」とは|第2回特許の鉄人観戦記

【1】予備知識。「クレーム」とは

まずは予備知識として「クレーム」について。

特許、知財関係の方はこの項をスルーして先に進んでください(笑)

「クレーム」とは、「特許を取りたい発明を文章化したもの」です。

一般には、「クレーム」と言うと、「苦情」というイメージですよね。
でも、特許の世界で言う「クレーム」は、「主張」とか「請求」というニュアンスです。
もっと具体的に言えば、「特許を求めること」や「特許を求める発明の内容」を意味しているんです。

「特許」は、新しく、進歩的な技術のアイデア(発明)に対して独占権を与える制度です。

弁理士はクライアントが特許を取得するのに必要な出願書類(申請書類)を作成します。
この出願書類の中で最も重要な書類と言われているのが「特許請求の範囲」という書類です。
この「特許請求の範囲」に「クレーム(特許を求める発明の内容)」を記載するわけです。

特許の審査では、実際の発明品ではなく、「クレーム」の記載内容で発明の良し悪しを判断します。
そして、「クレーム」の記載内容が「そのまま」特許の権利書となります。

だから、たとえ発明自体は素晴らしくても、弁理士がおかしな「クレーム」を書けば、

● 特許を取れない
● 特許で独占することができる技術の範囲が狭くなる

ということにもなるわけです。
そういう意味で弁理士の責任は重大です。

「良い弁理士」は、優れた「クレーム」を作成することができる弁理士です。
「クレーム」を作成する技術は、弁理士にとって虎の子の技術であり、弁理士の力量を判断する物差しでもあるんです。

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【2】「特許の鉄人 クレーム作成バトル」とは

「特許の鉄人 クレーム作成バトル」とは、弁理士のクレーム作成技術を競うリーガル(法律)バトルです。

第2回「特許の鉄人」~クレーム作成タイムバトル~

「特許の鉄人」は、かつての人気番組「料理の鉄人」をモチーフにしています。

「料理の鉄人」は、

①テーマ食材を発表する
②制限時間内に、料理の鉄人と挑戦者の料理人がテーマ食材の魅力を引き出す料理を考え、調理する
③審査員がその料理の出来栄えを審査する

というフォーマットでした。

「特許の鉄人」もこれを踏襲していて、

①テーマ発明と先行技術を発表する。発明者に発明内容を説明してもらう。
②制限時間25分以内に、2人の弁理士がテーマ発明の技術的な特徴を捉え、より良い特許を取れるようにテーマ発明のクレームを作成する
③審査員と観客がそのクレームの出来栄えを審査する

というフォーマットになっています。

「特許の鉄人」で難しいのは、

①どんな発明が出題されるか、全く予想することができないこと
②発明の特徴は1つと限られているわけではなく、正解がないこと
③制限時間が25分と極端に短いこと

です。

料理の食材だったら、ある程度は予想することができる。
見たことがない食材が出てきても、似通った食材から調理法を類推することができるかもしれない。

でも、発明の内容を予め予測するのは不可能です。
アイデアの種類も技術分野も無限にありますからね。

あとは発明の捉え方が難しい。
通常は、先行技術と特許を取ろうとしている発明を対比して、違う部分をピックアップし、その中から技術的な効果が発生しそうな部分を掘り下げていく、等の方法を採ります。

でも、その方法を、初見の発明について、25分という短時間に、壇上に上がっているという緊張状態の中でできるかというとね…。
殆ど、無理ゲーです(苦笑)

出場選手の先生方の勇気には敬服するばかりです。
勇者ですね!

実は「特許の鉄人」は今回で2回目の開催です。
第1回「特許の鉄人」が昨年(2019年)の6月に開催されています。

第1回「特許の鉄人」~クレーム作成タイムバトル~|東京カルチャーカルチャー

また、類似のイベントとして、「AI vs 弁理士 商標調査対決」も開催されています。

こちらは、商標調査のスピードと正確性を競うリーガルバトル。
特許業務法人Toreru が開発したAIと、生身の弁理士が対決しました。

AI vs 弁理士 ~ 商標調査対決|東京カルチャーカルチャー

このイベントは私も観戦しました。
その観戦リポートはこちら!

また、弁護士の先生が参加するリーガルバトル「契約書タイムバトル」も開催されています。

【3】「特許の鉄人 クレーム作成バトル」マッチレビュー

今回の「特許の鉄人 クレーム作成バトル」では、以下の2つの試合が行われました。

「日用品発明対決」と「ソフトウェア発明対決」です。

ざっくり言うと、発明の技術分野は、

●機械
●化学・バイオ
●電気・電子・制御

の3つに大別されます。

「日用品発明」は、日用品の形や構造に工夫を凝らしたものが多いですね。
この手の発明は機械系の弁理士さんが得意な分野です。

「ソフトウェア発明」は、例えば「コンピュータにどんな指示を出し、どんな操作をさせるか」等のコンピュータ制御のプロセスに特徴があるものをイメージすると良いと思います。
こちらは、電気・電子・制御系の弁理士さんが得意な分野。

弁理士の専門分野・得意分野に応じて、タイプの違う問題が用意されているわけです。

では、2つのバトルを簡単に振り返ってみます。

【第1試合】日用品発明対決

第1試合は日用品発明対決。

第1試合のお題はこちら。

▲ 「Qoobo」欲しくなりました。動きが愛おしい(笑)

しっぽがついたクッション型のロボット「Qoobo」です。

モフモフの毛が生えていて、撫でると尻尾を振ってくれます。
撫で方によって尻尾の振り方も変わります。
「セラピーロボット」と呼ばれる癒やし系ロボットです。

▲ Qoobo INTRODUCTION|ユカイ工学のYoutubeチャンネルより

先行技術としては、

SONYの犬型ロボット「aibo
大和ハウス工業のアザラシ型ロボット「パロ

が挙げられました。

この対決のポイントは、

従来の動物ロボットとの技術的な差・違いをどう捉えるか?
Qooboに固有の技術的効果が発生するためにはどんな条件が備わっていればよいのか?

この辺りを如何に文章で表現するかです。

出場選手は松本先生と甲斐先生。

▲ かなりの難題。苦戦する両先生。

お二人のPC画面はスクリーンに表示され、観客もその内容を見ることができます。

発明の捉え方、文章の起こし方に弁理士の個性が出ます。
私達、弁理士が見ていても興味深いです。
他の弁理士の仕事の仕方を見られる機会なんて、なかなかありませんからね。

▲ 大分、クレームが出来上がってきました

この対決は甲斐先生が勝利!

▲ ゼロイチ投票の宿命。私はここまでの差は感じませんでした。

甲斐先生は発明を多面的に捉え、バラエティーに富むクレームを作っていました。
クレームの厚みという点で甲斐先生に軍配が上がったように思います。

「日用品」というカテゴリーからすると、問題がかなり異色でした。
「ソフトウェア発明対決」で出題されてもおかしくないテーマですからね。
出場した先生もかなり面食らったのではないでしょうか。

頭が真っ白になってなーんも書けねえよ😭#特許の鉄人

— 弁理士 松本文彦 (@fumihikomatsu) January 17, 2020

松本先生、お気持ちはすごーくわかります(笑)
私は松本先生に一票を投じましたからね!
おつかれさまでした!

【第2試合】ソフトウェア発明対決

第2試合はソフトウェア発明対決。

第2試合のお題はこちら。

▲ ソフトが専門外の私には難易度が高い問題です…(笑)

大容量データを安全に送るためのシステムです。

クラウドでは共有できないような大容量のデジタルデータ。
これをセキュリティボックスに入れて宅配してもらうというものです。

セキュリティボックスのロックにスマホアプリを使っています。
差出人が決めたパスワードを持っている人だけが箱を開くことができます。
パスワードだけではなく、ボックスに内蔵されたGPSの位置情報と受取人住所が必要です。
この2つが一致しないと箱を開けない仕組みになっています。

先行技術としては、バイク便の「TIME BOX」というサービスが挙げられました。
これはパスワードが一致すれば、それだけで箱が開くようです。

▲ 先行技術の把握なくしてクレームは書けません

もう一つ先行技術があったんですが、メモをしそびれました…。
確か、Amazonのサービスだったはずです。

この対決のポイントは、

多数の登場アイテムの内容、それらの関係性を如何に整理し、文章化するか?

でしょうね。

第1試合では登場するアイテムが「Qoobo」だけでした。

それと比べると、第2試合の発明では登場するアイテム数が多いです。
セキュリティボックス、差出人のスマホ、サーバ、受取人のスマホ。

これらをどう整理し、技術的な関係性を文章化していくか?

この辺りがポイントになります。

出場選手は押谷先生と木本先生。

▲ 弁理士業界のニューウェーブ?!

第1試合の先生とは服装の雰囲気が違うのがわかりますか?
お二人はITベンチャー畑の先生です。
服装もラフな感じです。
いい意味で弁理士っぽくない(笑)

第2試合の隠れた見所は「裏技」です。

ソフトを専門としている先生方はIT技術に対するリテラシーが高いんですよね。
だから、様々なツールを駆使する人が多いイメージです。
実際、前回出場した奥村先生はWordマクロを駆使してクレーム作成を行っていました。

そういうところが同業者の僕らから見ても興味深いわけです。

今回は木本先生がWordではなく、Excelで書くという技を披露。
Excelのセルに書き込んだ文章を、階層化した形でWordに移植するという裏技を使っていました。

▲ 木本先生、裏技を発動!

試合開始から25分が経過し、試合終了。

いやぁ、お二人ともタイピングスピードが爆速。
めっちゃ速かったです(驚愕)

▲ 最後までクレームに手を入れ続けた両先生。おつかれさま!

この対決は押谷先生が勝利!

▲ 第2試合は激戦の末、押谷先生が勝利!

審査員二人の評価も分かれる接戦でした。

先行技術との差別化、特許の審査の通りやすさに重点を置き、特許取得の可能性を上げることに注力した押谷先生に軍配が上がりました。

私はこのイベントの状況をTwitter実況していました。
そちらも併せてご覧ください。

今夜はイベント。
会場入りしました!#特許の鉄人#東京カルチャーカルチャー pic.twitter.com/tOLR6kEano

— 山田 龍也@ものづくりとブランドづくりの専門家 (@sweetsbenrishi) January 17, 2020

【4】「特許の鉄人」を開催する意義

最後に、このイベントを開催する意義について考えてみたいと思います。

弁理士は弁護士や税理士と比べると、認知度が低い資格です。
何をしてくれる人なのかもよくわからない。

そういうことが弁理士のビジネスチャンスをロストする原因にもなっている気がするんですよね。

まずは弁理士の仕事内容を一般の人にも知ってもらうこと。
それがこの業界を活性化させることに繋がるのだと思っています。

だからこそ、弁理士のコア業務である特許の仕事、クレーム作成の技術を伝える意義があるのではないでしょうか。

発明を文章化する。
地味で職人的と言われる弁理士の仕事。

それを、あの「料理の鉄人」を模した対戦バトルとし、エンターテイメント化し、誰もが楽しめるイベントに昇華させた。

このイベントの企画者である加島先生には頭が下がる思いです。

▲ 企画者の加島先生による開会挨拶

加島先生、出場選手の先生方、そして運営に関わった皆様、おつかれさまでした!

まとめ

弁理士の仕事、多少はイメージすることができたでしょうか?

製造業の方は「かかりつけの弁理士」を一人は作っておくといいですよ。
新しい商品企画、新しい事業を始める時はぜひお声がけください!

山田 龍也
この記事を書いた人
弁理士/ネーミングプロデューサー/テキスト職人。中小製造業によくある「良い商品なのに売れない」のお悩みをローテク製品の特許取得、知的財産(特許・商標)を活用したブランドづくり、商品名のネーミングで解決している。

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